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【天皇賞・秋】悲鳴と、声援が重なった これからもまずありえないレース

  • 2022年10月31日(月) 18時00分

届いたイクイノックスも粘り切ったパンサラッサも素晴らしかった


重賞レース回顧

イクイノックスが勝利した天皇賞・秋の直線(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 天皇賞(秋)2000mでハナを切った馬が、前半1000mを「58秒0」を切る厳しいペースで飛ばしたケースは、今年で6回目となった。

 1992年…「前半1000m57秒5-後半1000m61秒1=1分58秒6」
 1998年…「前半1000m57秒4-後半1000m61秒9=1分59秒3」
 2003年…「前半1000m56秒9-後半1000m61秒1=1分58秒0」
 2011年…「前半1000m56秒5-後半1000m59秒6=1分56秒1」
 2012年…「前半1000m57秒3-後半1000m60秒0=1分57秒3」
 2022年…「前半1000m57秒4-後半1000m60秒1=1分57秒5」

 今年は前半1000m通過の速さからすると「史上4位タイ」にとどまるが、見ていたファンが驚いたのは、ハナを切ったパンサラッサ(父ロードカナロア)と後続との差があまりにも開きすぎ、大ゲサではなく3コーナー過ぎでは20馬身近くあったこと。

「ああ、これでは逃げ切られてしまう」「少なくとも連に絡みそうだ」悲鳴と、声援が重なった。実際、パンサラッサは坂上でバテかけたが、自身の上がり3ハロンは「36秒8」。止まってはいない。あの位置からイクイノックスが届いたのもすごいことだが、粘り切ったパンサラッサも素晴らしかった。

 パンサラッサの前後半の1000mは「57秒4-60秒2」=1分57秒6。東京2000mの天皇賞(秋)で前半1000m58秒0を切って行きながら連対した馬も、1分58秒0以内で乗り切った馬もパンサラッサが史上初めてだった。

 イクイノックスの前後半は、最速の上がり32秒7に後半2ハロンを加算すると「推定61秒5-56秒0」=1分57秒5。

 前半1000m通過地点で「推定4秒1」も離れていたイクイノックスは、後半の1000mを推定「56秒0」の猛スパートで1馬身差し切っていたのだった。

 2000mの中距離レースで、中間1000m地点で約4秒(およそ20馬身)も離れていた馬が、史上「7位タイの勝ち時計1分57秒5」の決着で1着、2着するなど、これからもまずありえないレース展開だった。

 イクイノックスの後半の加速力がケタ違いなら、パンサラッサの思い切った戦法で自身の2000mの最高時計を「2000m14戦目で1秒6も短縮」した粘り腰強化もすごすぎた。

 ただ、後半3ハロンを「32秒-33秒台」でまとめた馬が「計12頭」に達している。確かにパンサラッサのペースは、秋の天皇賞史上に残る速いペースだが、そこからあまりにも離れてしまったため、ペース判断ができなくなってしまった人馬がいた印象がある。

 中距離2000mのGIで、今回のレースの流れはハイペースとして記録に残る。そんな中で自身の上がり3ハロンは33秒前半の鋭さだったのに、それで結果に結びつかなかったグループは、やっぱり不完全燃焼の悔いが残ったかもしれない。

 後半鈍ったパンサラッサの最後の3ハロンは36秒8であり、天才型のイクイノックスだけは鮮やかに届いたが、上がり3ハロンで「3秒も4秒も」パンサラッサを上回りながら善戦止まりの結果は無念だったのではないか。

 3着ダノンベルーガ(父ハーツクライ)は、非常に惜しい3着だが、クビ差届かなかったパンサラッサの上がりを実に4秒0も上回る「32秒8」だった。4着ジャックドール(父モーリス)も、3着ダノンベルーガと同じように激しくパンサラッサを目がけて伸びたが、自身の上がり33秒5は、パンサラッサのそれを3秒3も上回っている。難しい展開での結果論だが、幻惑されたか強気に動けず、あまりに離されすぎてしまっていた。

 5着にとどまったシャフリヤール(父ディープインパクト)は、有力馬の中ではジャックドールとともに「これはまずい」と早めにスパート態勢に入ったが、完調にはなかったためか反応が鈍かった。海外遠征で精神面でもタフになったはずだが、みんなが絶好調というわけにはいかない。パドックの気配や動きに迫力が乏しかった。

 9着ジオグリフ(父ドレフォン)のプラス14キロの馬体は、太めではなく、3歳の秋らしくひと回り逞しくなった素晴らしい馬体。のど鳴りの影響、距離適性も多少はあるだろうが、鞍上福永祐一騎手のコメントにもあったように、確かにここまで時計の速いレースは合っていない印象が残った。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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