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マキシマムセキュリティを巡る違法薬物疑惑、裁判で全面的に認める供述

  • 2022年12月14日(水) 12時00分

起訴から2年9か月を経て第一回サウジCの結果を再検証


 アメリカの元調教師で、2019年の全米最優秀3歳牡馬マキシマムセキュリティらを手掛けたジェイソン・サーヴィス(65歳)が、9日、ニューヨーク州連邦裁判所で行われた最終意見陳述で、自らにかけられた管理馬への違法薬物投与疑惑を、全面的に認める供述を行った。この結果、来年5月18日に予定されている判決申し渡しで有罪になることが確実になり、4年程度の懲役を課せられることになった。

 世界の競馬サークルを震撼させたニュースが駆け巡ったのは、2年以上前の2020年3月9日のことだった。マンハッタンにあるニューヨーク州連邦地方裁判所が、競走馬の能力を向上させる薬物を違法に使用したとして、27人の競馬関係者を起訴したと発表したのだ。合衆国司法省をして、競走馬に対するドーピングを巡る事件として、これまでで最大規模の捜査員を投入した結果、起訴に持ち込んだ関係者の中には、ジェイソン・サーヴィスだけでなく、2019年のG1ドバイゴールデンシャヒーン(d1200m)を制したエックスワイジェットらを手掛けたホルヘ・ナヴァロといた、トップトレーナーが含まれていたことで、競馬業界に連なる誰もが大きな衝撃を受けることになった。

 検察側の申し立てによると、FBIニューヨーク支局の協力を得て2年にわたる内偵を続けた結果、米国内においてはニューヨーク、ニュージャージー、フロリダ、オハイオ、ケンタッキー、インディアナの各州、並びに、中東のUAEを拠点とする関係者が企てた、組織的犯罪の全貌が明らかになり、調教師、調教助手、獣医師、薬剤師、調達係ら、総勢27名の関与が立証されたのだ。

 手口としては、血中濃度を高める薬剤、鎮痛剤、気管支拡張剤などを競走馬に投与。これらには、酸素摂取量を増幅させる一方で、神経を鈍化させる効果があり、結果として耐久力が向上するという効用がある。だが、競走能力を高める薬剤(PED)の投与は、心肺を含めた競走馬の肉体に過度の負担をかけ、競走中の事故の危険性を増大させ、場合によっては死に至る要因となりうる。捜査に関わったFBIニューヨーク支局のウィリアム・スウィーニー氏は訴状の中で、「PED投与は、馬に対する虐待以外の何ものでもない」と結論づけている。

 調合された薬剤を入れた容器には、実際の中身とは異なるラベルが貼られており、こうした偽装を請け負う業者が連座していたという、組織的犯行だった。彼らが使用していた薬剤には、いくつか種類があったが、中でも「ドレンチ」と呼ばれるPEDは、通常のドーピングテストでは検知されない物質であったことが確認されている。

 例えば、サーヴィス厩舎に所属していた時代のマキシマムセキュリティは、10戦して8勝を挙げているが、その間にレース後のドーピング検査で禁止薬物の陽性反応が出たことは、ただの1度もない。

 マキシマムセキュリティが1着で入線した、2020年2月20日に行われた第1回サウジCでも、薬物検査の結果は「シロ」だったのだが、前述したように、今回の疑惑が露呈したのがそのわずか17日後のことで、ジョッキークラブ・オヴ・サウジアラビアはその段階で、第1回サウジCの結果を「保留」とすることを宣言。米国における司法当局の判断を待った上で、レースを確定するとして、マキシマムセキュリティ陣営への1着賞金1000万ドルの配布も、差し止めとなっていた。

 起訴から2年9か月を経て、ニューヨーク連邦裁判所からの裁定が下ったことを受け、ジョッキークラブ・オヴ・サウジアラビアは12日、第1回サウジCの結果を再検証する作業に入ることを表明した。

 方向性としては、2着に入線していたミッドナイトビズーの繰り上げ優勝を決めた上で、こちらは既に支払われていた2着賞金と1着賞金との差額を、改めて配布することになるはずだ。

 これに従い、6着入線のゴールドドリーム、7着入線のクリソベリルも、それぞれ5着と6着に繰り上がると見られている。

 競馬界を揺るがせた一大スキャンダルに一応の決着がついた形となったが、同様の事件の再発防止は、競馬に関わるすべての関係者にとっての重い命題となりそうである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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