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世界の競走馬オークションで総額約33億5千万円に上る売却代金の未納が判明

  • 2023年01月11日(水) 12時00分

タタソールズは代金未納の17頭を改めて販売すると発表



 英国のニューマーケットを拠点とする競走馬オークション運営会社「タタソールズ」が、1月7日、昨年10月に開催した「オクトーバー・イヤリングセール」で『売却』された17頭を、改めて『販売』することになったと発表した。

 理由は、売却代金の未納である。

 代金が支払われなかったのは、ブラッドストック・エージェントのリチャード・ナイト氏が、オクトーバー・ブック1で購買した16頭、ブック2で購買した1頭の、合計17頭だった。

 動く金額が大きいだけに、セール主催者はどこも、購買者登録を受理するにあたっては慎重な姿勢を原則としており、ことに「一見(イチゲン)さん」の顧客については、関係する金融機関とも連動して、支払い能力に関する調査を行うのが通常だ。また、各国のセール主催者の間には横の繋がりがあって、例えばA社が主催するセールで未払いを起こした購買者は、その後、B社、C社、D社が主催するセールでも購買を差し止められるのが通例で、すなわち、金輪際二度とセールでの購買が出来なくなるのだ。この辺り、未払いを防ぐ大きな抑止力となっている。

 それでも、パブリック・オークションにおける代金未納というのは、古今東西、起こりえない話ではなく、今回もその一例ではあるのだが、今回は金額が大きいだけに、ブラッドストック産業界に衝撃が走っている。17頭の購買総額は1105万5000ギニー、日本円にして約18億9694万円に上ったのだ。

 なおかつ、だ。リチャード・ナイト氏は、フランスのアルカナ社、アイルランドのゴフス社、アメリカのキーンランド社が、それぞれ昨年後半に主催したイヤリングセールでも活発な購買を行っていたが、これらの代金もすべて未払いとなっていることが判明。その総額は、日本円で約33億5千万円になることがわかっている。

 セールでの購買に際しナイト氏は、彼に代理購買を依頼した顧客について、「かねてより競馬に関わっている馬主」とのみ発表し、具体的な名前を公にはしていなかった。だが、英国のレーシングポスト紙は、昨年10月19日付けの紙面と電子版で、ナイト氏のクライアントがクウェート人馬主のサレー・アル・ホメイジ氏(61歳)であると報道。タタソールズが17頭の再販売を決定したことを報じた1月7日の電子版でも、代金未払いを起こしたのはアル・ホメイジ氏であると報じている。

 クウェートを拠点とする「カウト・フード・グループ」の創業者で、現在も会長代理の職にあるのがアル・ホメイジ氏だ。食事のケータリング・サービスや、食材の輸出入、さらには、バーガーキング、ピザハット、タコベルといったファストフード店の中東における販売権を取得し、これを運営してするのがカウト・フード・グループである。

 競馬の世界では、2007年の英国ダービーを含めて3つのG1を制したオーソライズド、2017年の愛チャンピオンSなど3つのG1を制したデコレイテッドナイトらを、イマド・アル・サガー氏と共同で所有していた人物として知られている。アル・ホメイジ氏とアル・サガー氏のパートナーシップは、2018年に解消。昨年秋の1歳馬購買は、アル・ホメイジ氏が単独馬主として競馬の表舞台に帰って来るための投資と見られていた。

 セールの開催規約によれば、購買者から代金の満額支払いがあった後、販売者に対して代金が支払われるとなっているが、レーシングポスト紙は独自の取材で、ナイト氏が購買した馬の代金が既に、販売者に支払われていることを確認している。すなわち、現段階においては、タタソールズ社が約18億9694万円を立て替えていると報じている。

 1月1日をもって2歳となった、代金未払いの17頭は現在、ニューマーケットのヴィカレイジ・ファームにおり、既に馴致を終えて、初期調教を行なっているとのことだ。

 その17頭を再販売すると発表したタタソールズだが、具体的にどのようにして販売するか、7日の段階では明らかにしていない。だが、個別にプライベートセールに応じるか、あるいは、タタソールズが今後ニューマーケットで開催するセールに上場されることになりそうである。上場されるとすれば、2月2日と3日に開催される「フェブラリーセール」になるのか、あるいは、4月18日と19日に開催される「タタソールズ・クレイヴン2歳ブリーズアップセール」になるのか。いずれにしても、大きな話題となることは間違いない。

 例えば、オクトーバーセールにてセッション3番目の高値となる200万ギニー(約3億4318万円)の値がついた父フランケル・母ボールドラスの牡馬は、叔母にG1スプリントC勝ち馬タンテローズ、従兄弟にイエローリボンSなど2つのG1を制したドバウィハイツや、G1仏二千ギニーなど2つのG1を制したメイクビリーヴがいるファミリーを背景に持つ。

 あるいは、オクトーバーセールにてセッション5番目の高値となる180万ギニー(約3億0886万円)の値がついた父ロペデヴェガ・母アンナロウの牝馬は、距離5FのG1を4勝した快速馬バターシュの半妹にあたる。

 彼らをはじめとした17頭の2歳馬が、どこでどのように販売されるのか、続報を待ちたいと思う。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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