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JRA重賞馬最長寿マイネルダビテ(1)媚びることなくマイペース…“無の境地”に近い馬

  • 2023年02月14日(火) 18時00分
第二のストーリー

JRA重賞勝ち馬の最長寿記録を保持するマイネルダビテ(提供:一般社団法人umanowa)


ご長寿馬ののんびりライフ


 マイネルダビテ。1984年5月3日に北海道新冠町の村田光雄さんの牧場で誕生した。父デュール、母ニホンピロチャイナ、母父がチャイナロックという血統だ。岡田スタッドグループ代表の岡田牧雄さんの所有馬として、競走馬デビューを果たし、4歳時(旧年齢表記・現3歳)に重賞の共同通信杯4歳ステークス(1987年)を制するなど活躍し、1989年11月の福島民友C(8着)を最後に競走生活にピリオドを打った(通算24戦4勝)。その後は岡田スタッドで功労馬として暮らし始め、2021年1月30日に37歳でこの世を去った。ちなみにシンザンが持っていたJRAの重賞勝ち馬最長寿記録の35歳3か月11日を、2019年8月15日に更新。現在もマイネルダビテがJRA重賞勝ち馬の最長寿記録保持馬となっている。

 そのマイネルダビテの最晩年のおよそ1年間、折に触れて動画を撮影して「馬産地ひだかの馬房から」というYouTubeチャンネルで発信し続けた女性がいる。一般社団法人umanowa代表の糸井いくみさんだ。乗馬がきっかけで馬に魅せられた糸井さんは、馬産地でもある北海道新ひだか町の地域おこし協力に応募。それまで過ごしてきた札幌市から新ひだか町に移住してきた。乗馬が馬の世界への入り口だった糸井さんは競馬は詳しくなかったが、知人から「この町には岡田スタッドさんという有名な牧場がある」と教えられて、牧場代表の岡田牧雄さんのもとを訪ねた。

「その時に放牧地にいた馬がマイネルダビテだったんです」

 最初にダビテを目にした時の印象をこう話す。

「その頃はシンザンの記録を追い抜くかどうかの時期だったと思うのですが、だいぶ背中も垂れていて年を取っているという外見でした。それでも駆け回ったりしていましたし、このような状況でも長生きできるんだと驚きました」

第二のストーリー

放牧地で過ごすダビテ(提供:一般社団法人umanowa)


 競馬の知識がほとんどなかった糸井さんは、当然のことながらマイネルダビテの存在も全く知らなかった。実際にその姿を目にした糸井さんは、ダビテを映像に残したいという思いに駆られた。

「長寿の馬がいるということと、その馬の何気ない日常を多くの方に知っていただけたらなと考えました。それで岡田牧雄さんに動画を撮影していいですかと尋ねたら、好きにしていいよと快諾してくださいました」

 最初に撮影したのが2019年。YouTubeには10月29日にアップされている。

「ただ長生きしている馬という認識で、重賞を勝っていることも知らずに撮影をし始めたのですが、牧雄さんや牧場スタッフさんに話を聞くたびに、本当にこの馬はいろいろな人に影響を与えたということを実感しました」

 放牧以外にも食事の場面をよく撮影した。

「歯がなくなってきていたので草を食んでは噛み切れない部分をペッと出して、エキスだけ吸い取りながら食べているという感じでした。撮影するにあたり牧場スタッフさんと関わる機会が出てきますよね。ご飯のシーンを撮影中に大豆かすが好物だとかスタッフさんに教えてもらったりしていました。はじめはスタッフさん側からしてみたら『この人、何でダビテを撮っているんだろう』と不思議がられていたと思うのですけどね。岡田牧雄さんにも『最近ダビテをYouTubeに上げている人いるけど、誰なんだろう?』と聞かれて、『それは私です』と答えたら『ああ、そうか!』と(笑)。こんなこともありましたよ」

 と、当時を振り返った。

第二のストーリー

食事中の様子もよく撮影したという(提供:一般社団法人umanowa)


 長寿だけでも驚いた糸井さんだが、もう1つ驚愕したことがある。

「ダビテは冬でも馬着を着ていないんですよ。乗馬では冬は馬着を着せることが多いので、これは衝撃でした。ダビテ自身、馬着を嫌がるそうなんです。白銀の世界に馬着なしの黒っぽいダビテが佇んでいる姿が特に目立っていました」

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北海道の極寒の冬でも馬着を着なかったというダビテ(提供:一般社団法人umanowa)


 撮影者という立場の糸井さんから見て、ダビテはどのような馬だったのだろうか?

「誰かが来ても近寄ってきたりもしませんし、人に甘えるというタイプではなかったです。好きな場所で好きなように過ごす。我が強いというタイプではなくて、無の境地に近い馬。そう感じました」

 競走馬を引退してから長年岡田スタッドで、人間に媚びることなくマイペースで日々を過ごしていたダビテ。

「岡田牧雄さんやスタッフにとってダビテは景色と化していると言いますか、そこにいるのが当たり前な存在だったのではないかと思います」

 静かに淡々と余生を送っていたダビテを糸井さんは撮り続けた。

(つづく)

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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