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【日本ダービー】テン乗りD.レーン騎手の果敢なレース運び

  • 2023年05月29日(月) 18時00分

2着惜敗のソールオリエンスも失敗ではなかった


重賞レース回顧

日本ダービーを勝利したタスティエーラ(撮影:下野雄規)


 ソールオリエンス(父キタサンブラック)の勝った皐月賞2000mは、重馬場で前後半バランスは前傾の「58秒5-62秒1」=2分00秒6。ところが、日本ダービー2400mは良馬場で前後半「1分12秒8-1分12秒4」=2分25秒2。まったく逆のスローにも近い流れになったが、勝ったのは皐月賞2着のタスティエーラ(父サトノクラウン)。2着が皐月賞馬ソールオリエンス。上位は変わらなかった。

 皐月賞と日本ダービーの強い結びつきは知られるが、各陣営が出走レースを絞るようになった近年、これで10年連続して皐月賞組が日本ダービーの3着以内に「2頭以上(3頭が三回)入るという図式が成立した。

 逆転勝ちのタスティエーラの最大の勝因は、緩い流れを察知してライバルより先に抜け出して懸命にもたせたD.レーン騎手の果敢なレース運びだろう。「大レースでは、決して脚を余すな」。どこの国でも共通のビッグレースでの騎乗だった。皐月賞のタスティエーラの松山弘平騎手も同じだった。

 ただ今回、皐月賞と違っていたのは良馬場の落ち着いた流れで、大半の馬が上がり33秒台前半の切れ味勝負になったこと。テン乗りで勝った騎手は、遠く1954年のゴールデンウエーブに騎乗した岩下密政騎手以来になる。

 では、2021年のエフフォーリアに続き、またしても2着惜敗の無念を味わうことになったソールオリエンスの横山武史騎手は失敗だったのか。そうではない。

 2013年のキズナ、1999年のアドマイヤベガなどで日本ダービーを6勝もしている武豊騎手の、サンデーサイレンス系産駒の勝ち方には、長い直線の攻防でライバルを先にスパートさせ、そのあとのエンジンフル回転を、一歩ときには二歩も遅らせて最後の最後に差し切る東京2400mだからこその極意があった。

 2021年、エフフォーリアで抜け出して必勝の形を作りながらシャフリヤールにハナだけ差さされた横山武史騎手は、道中ずっとタスティエーラを射程に入れて進み、レーン騎手のスパートを見てからスパートに出たと思えた。最後の1ハロンで0秒2も速い脚を使って、あとちょっとで差し切れそうな「クビ差」だった。小さな誤算は少し寄られる形になり、ソールオリエンス自身がささり気味だったこと。また、後半だけの勝負になったため上がり「33秒3-5」の決着が待っていたことだった。

 残念な惜敗だが、武豊騎手も、父の横山典弘騎手も、3勝もした福永祐一(元)騎手も若い20代にはみんな2回も3回も日本ダービー「2着」の記録がある。近年はささやかれないが、若手には簡単に手が届かないのがダービー。D.レーンだって来年30歳だ。

 前半1200mを1分12秒台の絶妙なペース(オークスのライトクオンタムも1分12秒台)で場内を沸かせたパクスオトマニカの田辺裕信騎手のペース判断はすばらしいが、これを早々と読んで前半は最後方近くにいたのに、勝負どころの4コーナー手前ではスルスルと6-7番手まで進出していたのが松山騎手のハーツコンチェルト(父ハーツクライ)。「クビ、ハナ」差の3着。決定力もう一歩だったが、秋には大きく変わるだろう。

 最内の好枠を利し、勝ち馬と同タイムの4着に突っ込んだベラジオオペラ(父ロードカナロア)は上がり最速の33秒0。最後に外から一気に突っ込んだ15番人気ノッキングポイント(父モーリス)の5着も、粘って6着の16番人気ホウオウビスケッツ(父マインドユアビスケッツ)も、楽に追走できた緩い流れが味方したとはいえ、頂点の日本ダービーでの善戦は大きな自信となるだろう。

 激しくなかったレース展開に物足りなさを感じた声もあったが、今年は、そういう流れだから逆にめったにない大接戦になった面白さが上回った気がした。

 期待を集めた2番人気のスキルヴィング(キタサンブラック)は、最後はもうルメール騎手が止めているのに、それでもゴールしてから倒れ込んだ。動かなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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