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なぜ今「馬ふん」と「食」を、改めて繋ぐのか?|TCC Japan 山本高之 1/2

  • 2023年06月26日(月) 12時00分
 2023年4月26日、表参道駅から徒歩数分の住宅街の中で、新たな可能性を秘めたカフェがグランドオープンを迎えた。引退馬の支援やその利活用をリードする株式会社TCC Japanが手がけたこの「BafunYasai TCC CAFE」は、人と馬とが寄り添い合う循環型社会を目指している。馬自身が作り出すことのできる「馬ふん」、そして我々が生きていくうえで必要不可欠である「食」。その「馬ふん」と「食」を繋ぎ合わせ、「馬ふん堆肥を用いて作られた農作物を使った、安心安全で美味しい食」を提供するカフェが持つ可能性、そして代表の山本さんが描く新たな人と馬との関係とは──。

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株式会社TCC Japan 代表取締役 山本高之さん(Creem Pan 提供)


馬と人をつなげる新スポット


「ご飯を食べながら『馬にまつわるものがたくさんあるな』と、馬のことを考えるきっかけとなる場所になってくれたら、と思います。世間は、競馬が好きで競走馬というものに馴染みがある人たちばかりではありません。そうした方々への啓蒙になれば、と。“ふらっと立ち寄ってもらう”ためには、何かのついでにでも立ち寄りやすいような人が集まりやすい立地というのが重要になってきます。そのための、表参道です。加えて、TCCの活動を発信するためのコンセプトショップとしての役割も担うことを考えれば、発信力の高いエリアに出店できた方が良いと考えました」

 4月23日に開催されたオープニングイベントでは、元JRA調教師の角居勝彦さんや栗東市長の竹村健さん、美浦村地域おこし協力隊の守永真彩さんらを迎え、大いに盛り上がりを見せた「BafunYasai TCC CAFE」。モザイクアートのお披露目やテープカットといったイベントが進み、ミシュランガイドにも掲載された名店「プチ・プレジール」阿部ご夫妻による、特別メニュー提供などにゲストが舌鼓を打つ。馬ふん堆肥で作られた食材をふんだんに使った料理や飲み物を楽しみつつ、盛況のうちに幕を閉じた。

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オープニングセレモニー(Creem Pan 提供)


 このカフェの出店準備をしていくうえで、重要だったのは馬ふん堆肥を使って農作物を作る生産者たちの選定。そして力を入れたのが、とにかく「美味しいものを提供する」ということだ。馬ふんをテーマにしてコンセプトを構築している以上、美味しくないものを提供することは、馬や馬ふんの価値そのものを下げてしまうことに繋がりかねない。

 自分たちだけのノウハウでは物足りないと判断した部分については、自ら帯広まで足を運び、レシピの監修を頼み込んだこともあるという。オープンまでに何度も試作を重ね、納得がいかないものはメニューから削除するなどブラッシュアップを続けた。

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BafunYasai TCC CAFE 料理イメージ(株式会社TCC Japan 提供)


 馬ふんは、草が腸内微生物の働きによって簡単な発酵が進んだような状態であるため、堆肥としての活用が可能だということは、Loveumagazine.『馬は人を乗せずに、月8万円稼げるか?|名伯楽・角居勝彦の挑戦 2/4』でも紹介されている。角居さんは、馬ふんに水と「バクチャー」と呼ばれる微生物の活性剤を入れて、空気を送ることで、臭いが少なく微生物も多く含まれた有機肥料の開発に取り組んでいる。

 また、馬ふん堆肥を用いたマッシュルーム栽培でしられるジオファームのホームページには、下記のような記載もある。

 少し年配の農家さんであれば「馬の堆肥が一番良い! 野菜が健康に育つ、大きくなる! ウマくなる!」と言われます。

 そんな昔ながらの声を大切にして、馬と一緒に、ウマいぃ野菜を作り広げることで、馬たちも生産者の一員として、自活できるようになれば。そんな思いから、馬の堆肥づくりの研究をはじめ、そして、その馬の堆肥を使った野菜づくりを始めました。

「BafunYasai TCC CAFE」では、こうした馬ふん堆肥の効能に注目し、カフェのコンセプトに据えている。そして、既に研究・浸透が進みつつある馬ふん堆肥とカフェを組み合わせることで、新たなビジネス価値を創出した。

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ジオファーム八幡平(映画「今日もどこかで馬は生まれる」/ Creem Pan 提供)


表現ひとつでビジネスが生まれる


 山本さんの唯一無二に対するこだわり、そして既存のものを組み合わせて新しい価値を創出する感性は、カフェの運営に留まらない。たとえば、昔からある乗馬クラブや観光牧場。こうした施設にも引退した元競走馬がいて、余生を見守り世話しているところは少なくない。しかし多くの施設は、そうしたサラブレッドたちを「引退馬」として打ち出しているわけではなく、そこに「もったいなさ」を感じるという。表現ひとつ、工夫ひとつで生まれるものがあるのに、それを見逃していることは損失といえる。

「今で言えば、ヴェルサイユリゾートファームさんが“馬の余生を見ている牧場”として知名度を上げていますよね」

 Loveumagazine.『全員から好かれなくていい! 引退馬ビジネスの風雲児」岩崎崇文(Yogiboヴェルサイユリゾートファーム) 1/2』でも紹介されているように、Yogiboヴェルサイユリゾートファームではローズキングダムとの出会いを発端として、一気に養老部門が注目されるようになった。YogiboとのタイアップやテレビCM放映など、一般認知度の高さは他の牧場と比べて群を抜く。Twitterアカウントのフォロワーは8.7万人を超え、大きな発信力を持つ牧場へと飛躍を遂げた。

「今までも引退馬の余生を見ている牧場はたくさんあったはずですが、そういう謳い方をしてこなかった。これは一つの表現だけで意識が変わる、良い例だと思います」

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「全員から好かれなくていい! 引退馬ビジネスの風雲児」岩崎崇文 より(Yogiboヴェルサイユリゾートファーム 提供)


「馬は『乗る』という行為ができる特別な動物ではありますが、私自身が馬乗りではないので、『乗りたい』という気持ちがあまりありません。ですが、馬は癒しの能力もすごく高いですから、見るだけ、触れるだけでも十分ですし、そういうことが期待できる施設が作れたら良いと思います」

 今までの『少し乗って、おやつをあげるだけ』というスタイルを脱却し、別の切り口からアピールできるような観光牧場が増えれば、この問題をより多くの人たちに意識してもらうことに繋がってくるかもしれないと、山本さんは言う。

(後編へつづく)

取材協力:
山本 高之
株式会社TCC Japan

文:秀間 翔哉
協力:緒方 きしん
取材・監修:平林 健一
著作:Creem Pan

【記事監修】引退馬問題専門メディアサイト

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引退した競走馬の多くは、天寿を全うする前に、その生涯を終えているー。業界内で長らく暗黙の了解とされてきた“引退馬問題”。この問題に「答え」はあるのか?Loveuma.は、人と馬の“今”を知り、引退馬問題を考えるメディアサイトです。

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