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【プログノーシス×清山康成調教助手】「万全な状態で渡すことが仕事」札幌記念参戦の裏に川田将雅騎手とのプロフェッショナルな会話

  • 2023年08月13日(日) 18時01分
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▲札幌記念に出走予定のプログノーシスと清山康成調教助手(提供:清山康成調教助手)


間隔を空けながら大切に使われ、金鯱賞で重賞初制覇を果たしたプログノーシス。そのポテンシャルは主戦・川田将雅騎手も自身のコラムで触れるほどです。

しかし、丁寧に歩んでいく過程で調教担当の清山康成調教助手は「僕の判断ミスもあったのでは」と悩んだことがありました。そんな時、背中を押してくれたのは指揮官でもある中内田充正調教師。厩舎も主戦騎手も、みんなが大切に育ててきた期待馬がさらなる飛躍に向けて札幌記念に出走します。

(取材・構成:大恵陽子)

「もっと早く勝たせられたのでは」葛藤の末の金鯱賞制覇


──清山調教助手はデビュー前からプログノーシスの調教に乗ってきたとのことですが、最初の頃の印象はどうでしたか?

清山 体を大きく使ってすごくいいキャンターをしていましたけど、動き方を知らなくてフラットワークではまだ動ききれないような感じでした。それでも体の軸はしっかりあったので、徐々にできてくればいいかな、という気持ちで乗っていました。

──そうなると、既走馬相手のデビュー戦を勝った時のお気持ちというのは?

清山 嬉しかったですね。追い切りも手応えよく動いていたので、どこまでやれるか楽しみに見ていました。新馬戦を勝つのとはまた違った嬉しさがあります。既走馬が相手だと、キャリアの差も出てきますし、初めての場所で初めて10何頭と一緒にゲートを出たり、追い切りとは違って最初からある程度のスピードで走るので、頭の上にハテナが浮かばないかな、と心配する部分もありました。

──ハテナを浮かべながら走る新馬はたまに見ますが、プログノーシスは調教で教えてきたことをレースでも発揮できたんですね。続く毎日杯はレコード決着の中、最後方から追い込んで3着でした。

清山 勝ったシャフリヤールはその後、日本ダービーを勝って、2着グレートマジシャンもダービー4着。相手は強かったと思いますけど、プログノーシスも2戦目にしてああいう競馬ができて能力を発揮できたのではないかな、と思います。

──その時こそ中1週で使われましたけど、その後は間隔を取りながら大切に使われていますね。

清山 ちょっと硬さが出る馬で、最初の頃はレース後にガタッときていました。ゲートが得意ではないので、どうしても最後方からになってしまって、ほとんどのレースで上がり3ハロンが最速で32秒台の脚も使っています。その分、リフレッシュしてもらわないといけないくらい疲れがきて余計に硬くなっていました。それに、最初の頃はまだ体も弱いところがありました。

──速く走れるポテンシャルはあるけど、まだ体が追いついていなかったような感じでしょうか。

清山 たぶん体がまだ耐えられなかったんだと思います。調教師に「硬さが出ています」と伝えると、「ここまでの馬だし、無理して使わずに大事にいこうか」と言ってくださるので、僕も気兼ねなく状態について話すことができました。

──それゆえ、ほぼ毎レースが休養明け、という時期もありましたが、久しぶりでもしっかり勝つところがすごいです。

清山 調教師もその点に関しては「こういう子」というのをしっかり把握してくれていて、中内田厩舎ではレースの3〜4週間前に入厩することが多いんですけど、プログノーシスに関しては6週間前に入厩してトレセンでの調教期間を長めに取ってくれます。

──いまの栗東トレセン全体で見ても6週間前の入厩は結構早い方に感じます。そうして大切に育ててきたとなれば、金鯱賞は念願の重賞制覇だったのではないですか?


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▲金鯱賞でついに重賞初制覇(撮影:高橋正和)


清山 厩舎でレースを見ていたんですけど、鳥肌が立ちました。勝てる能力はあると思っていたので、本当に嬉しかったです。これだけの馬なので、「もっと早く勝たせられたのではないか」という葛藤が僕の中にあって、調教師に相談したこともありました。

──高いポテンシャルを感じていただけに、清山助手も悩んでいたんですね。

清山「時間がかかってしまって、僕の判断ミスなのかな、と思っています」と話しました。すると調教師は「ここまでの馬で、硬くなるのも知っている。ずっと乗っている清山がアカンって言うんやったら休養に出そう、と言ってきた。『大事にいこう』と二人で話した時もあったやろ? だから、それは気にしなくていいよ」と言ってくれました。そんなことも色々と重なって金鯱賞を勝ったので、すごく嬉しかったです。

──金鯱賞を勝った後は大阪杯という話もありましたが、それをやめて香港のクイーンエリザベス2世カップに向かいました。

清山 今年は金鯱賞から大阪杯までが中2週でした。心身ともにだいぶ成長して、レース後にガタっとくることは減っていて、「行けないことはないと思います」と調教師に伝えました。ただ、やはりタイトではありますし、その後はいつも以上に休養期間が必要かもしれません、とも伝えました。

──その先のことも考えて、レース間隔がゆったりと取れる香港にしたんですね。レースは直線で進路が空かない場面もありながら2着。惜しかったですね。

清山 本当に悔しかったです……。でも、進路だけの問題かなと思っていたら、レース後にザカリー・パートン騎手から「ちょっと外に張っていた」と聞き、そこはこちら側の責任だな、と反省しました。

2勝馬時代、GI出走馬を調教で煽っていた!?


──主戦の川田騎手はnetkeibaのコラムでもプログノーシスについて語っています。清山調教助手は川田騎手とどんなお話をしていますか?

清山 今回の札幌記念に関しては、僕が北海道に来る前に二人で話していて、「僕はこういうシチュエーションが浮かびますが、どう思いますか?」と聞きました。それは、いいビジョンも悪いビジョンも両方なんですけど、「それは大いにあり得る」と。

「なので、組み立てが大事だから、僕も考えるし、そうならないようにするのが騎手の仕事」と、すごく心強い言葉をいただきました。それを聞いて、「僕は万全な状態で川田さんに渡すことが仕事。競馬に行けば、あとは川田さんに託せばいいんだ」と思えました。

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▲「万全な状態で川田さんに渡すことが仕事」(C)netkeiba.com


──それぞれのフィールドで、プロ同士の仕事ですね。ところで、調教や馬房での素顔はどんな馬ですか?

清山 馬房ではめちゃくちゃ大人しいです。おっとりしていて甘えてきたり、めちゃくちゃ可愛いですよ。やんちゃな面もあって、イタズラをしてきて厩務員さんにシッシって怒られると、“やめろや感”をちょっと出してきたり(笑)。オンオフがハッキリしていると思います。

──オンの調教では正反対な雰囲気を?

清山 調教では真面目すぎるところがあって、「そんなに走らなくていいよ。今日は追い切りじゃないよ」と上手く伝えられたらすごく乗りやすいんですけど、追い切りで併せ馬をすると一生懸命走ります。あれだけの力もあって速い馬なので、抑えが利きづらい面もあります。

──併せ馬の相手にとったら「めっちゃ煽られてる」と感じそうです(苦笑)。

清山 まだ2勝馬だった頃にグレナディアガーズと併せたことがあって、相手も調教で結構動くんですけど、それと一緒に上がってきたので、「この馬、やっぱさすがやな」と思いました。むしろ、ちょっと「おいでおいで」しているくらいでした。

──相手はGIに向けた最終追い切りでしたけど、さすがプログノーシスです。5歳ですが、体はまだ成長しそうですか?

清山 まだのびしろがあると思います。元々そういう体形なのでしょうけど、シルエット的には幼く見せていて、触っていても少し緩さを感じさせます。だからその分、楽しみですね。

──この先の飛躍に向けて、札幌記念も注目を集めます。状態と意気込みをお願いします。

清山 今回もレースの約1カ月半前に帰厩して、栗東トレセンである程度は仕上げて、8月10日に函館競馬場に到着しました。あとはこちらで輸送の疲れを取って、環境に慣れてもらって、上手く調整していければ自ずと結果はついてくるのかなと思います。無事に、そして順調にレースに向かえたらいいなと思います。

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▲プログノーシスは「まだ伸びしろがある」(撮影:高橋正和)


(文中敬称略)

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ジョッキーや調教師など、毎週“旬”な競馬関係者にインタビュー。netkeiba特派員がジョッキーや調教師、厩舎スタッフなど、いま最も旬な競馬関係者を直撃。ホースマンの勝負師としての信念から、人気ジョッキーのプライベートまで、ここだけで見せてくれる素顔をお届けします!

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