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【加藤士津八調教師】「この馬やばい」「普通の馬とは全然違う」大器コラソンビートと阪神JFでGI初制覇を狙う!

  • 2023年12月04日(月) 18時02分
今週のFace

▲阪神JFに出走予定のコラソンビートを管理する加藤士津八調教師(左)(撮影:下野雄規)


2歳女王決定戦の阪神ジュベナイルフィリーズに出走するコラソンビートを管理するのは、開業6年目でのGI初制覇を狙う加藤士津八調教師。

前走は牡馬相手の京王杯2歳S。「自信がありました」という師の言葉通りの快勝で3連勝を決めましたが、コラソンビートの凄さはその一週前追い切りにあったようで…?

GI挑戦を前に、この馬への期待と力強い意気込みを語っていただきました。

(取材=デイリースポーツ・刀根善郎)

調教で猛時計を出した後、獣医師に見てもらったら…


──前走の京王杯2歳Sを快勝。同日にファンタジーSがある中で、あえて牡馬相手のレースを選んだ理由はどこにあるのでしょうか。

加藤 オーナーサイドの意向もありましたが、一番の理由は関西への輸送を避けたという点ですね。今くらいの時期なら牡馬も牝馬もそこまで関係ないだろうと考えていましたし、左回りの千四という今まで使ってきた条件とほぼ同じレースなら輸送がない分、こちらの方がいいんじゃないかと。逆に言えば、これで今回いい勝負をできなければ、上の舞台で戦っていけないだろうと考えていました。

──レース前の手応えはあったように見えましたが。

加藤 正直なところ、結構自信がありましたよ。もちろん不利を受けたり、アクシデントがあったりするのが競馬なのですが、ちゃんと力を出し切れば勝ち負けできるんじゃないかと思っていました。

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▲返し馬に向かうコラソンビート(撮影:下野雄規)


──実際のレースぶりはいかがでしたか。

加藤 当該週にゲート練習をした時、ゲートの中でうるさい面を見せていました。少し気合いが入っていたのでしょうね。競馬も少し出負けしてポジションが後ろになってしまったのですが、それでも勝ち切ってくれたのは馬に力があったからこそだと思っています。

──牝馬が京王杯2歳Sを勝ったのは、98年ウメノファイバー以来25年ぶりでした。

加藤 レース前から牝馬が勝てないという話は聞いていました。ただ、あまり気にしていませんでしたよ。どんなレースでも勝つのは強い馬。この馬なら勝負になると思っていましたし、他のライバルたちが使ってきたレース内容や経緯を見ても、十分やれると見ていました。

──デビュー前の牧場にいる頃はどんな馬だったのでしょうか。


加藤 本当に幼かったし、毛ヅヤもいい方ではなかったです。それこそ最初の頃は冬毛が伸びていて、ぬいぐるみみたいだなって(笑)。そんな中でも、競馬を使いながら体のシルエットは良くなってきていますよ。

──京王杯2歳Sの1週前追い切り後、先生は「この馬やばいな」と思ったとか…。

加藤 5F63秒0(10月25日・美浦W)の時計を出した時ですね。その後、獣医師に見てもらったら、「全然馬も傷んでいません。本当に追い切りしたんですか?」と言われたのです。普通はもっとダメージがあったり筋肉痛があったりだとか、歩様にも疲れが見られるのですが、そういうものが全くなかったのです。

──ちなみに、その1週前の猛時計は想定外だったのですか?

加藤 あれは少しよろしくなかったなと(苦笑)。あの追い切り後、スタッフには相当強く言いました。そこでみんなを怒ったことによって、当該週の追い切りは完璧にやってくれましたし、今回の一週前追い切り(11月29日)も、僕が思っていた通りのイメージで終えられました。やっぱり失敗は生かしていかないといけないので、結果的には良かったのかなと思っています。

──入厩してすぐに普通の馬と違うと感じたそうですね。

加藤 そうですね。初めての追い切りを見た時に「ん? 何か違うな」と感じました。スタッフのコメントも良かったですし、そもそも乗っている時の動きや雰囲気が普通の馬とは全然違うので、「ああ、これは走るだろうな」と。その時点ではどこまでいけるかは分からなかったですけどね。

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▲師の期待通り、GII・京王杯2歳Sを勝利(撮影:下野雄規)


──普段はどんな性格の子ですか。

加藤 普段はすごくおとなしいですよ。それでいてスイッチが入る時は入る。オンとオフはしっかりしていますよね。多分そういった賢い性格も競馬で生きているのだと思います。前回のゲートの駐立がうるさかったのも、これから競馬だと馬自身が分かっていたのでしょうね。1週前の金曜(12月1日)にゲート練習をやった時はおとなしく立ってくれました。もともと落ち着いて駐立できていた子でしたし、今回は精神的にも落ち着いて競馬に臨めるのでは、と思っています。

騎手時代に国枝厩舎に所属して得た経験


──ここから加藤先生ご自身についてうかがいます。調教師になって騎手時代の経験が生きているところなどはありますか?

加藤 ジョッキーの時は大した成績ではなかったので、生かせているかどうかは分からないですけど…。やっぱり実際のレースに乗っていたことで、レース前とかに伝えた方がいいポイントなどはジョッキーに伝えられているのかなと思っています。

──騎手時代にはいろいろな厩舎を手伝っていました。

加藤 もともと国枝厩舎に所属していて、フリーになってからも手伝っていました。あの頃の国枝厩舎にいた名馬や、GIを勝ってきた馬の背中を知れましたし、そこまで数は多くないのですが、藤沢(和雄)厩舎の馬に乗せてもらうこともありました。やっぱり能力のある馬とない馬とで同じような調教をさせては駄目だし、同じようなレースをさせたりとかも良くない、何事も個々の馬に合わせて求めてあげることが大事だと学ばせてもらいました。

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▲騎手時代の加藤士津八調教師(撮影:下野雄規)


──厩舎運営をする中で大事にしていることなどはありますか?

加藤 運営というか経営ですね(笑)。経営は大事だと思います。お金に余裕がないと心にも余裕が生まれませんから。お金に余裕があれば、馬にとっていい器具をどんどん取り入れられるし、(放牧先と厩舎の)馬の入れ替えも余裕を持ってできます。心に余裕がないとスタッフに対するあたりも厳しくなっちゃったりとかするかもしれないので、僕の方があまり熱くならず、一歩引いて余裕を持たないといけないな、と。そういう心構えが馬の方にも影響するだろうなとは思っています。

 馬の健康状態などを見てあげることは一番大事ですが、それはうちのスタッフがしっかりやってくれています。それに、うちの厩舎ではスタッフに役職をつけるようにしています。

──役職というのはどんなものですか?

加藤 馬にトレーニングをつける調教班と、カイバを作る班。その班同士で話し合うようにしたり、他にもいろんな役職をつけたりしています。それに加えて個々でちゃんと馬を見るようにして、みんなで話し合いながらやっていくようなシステムですね。これは厩舎の立ち上げからやっていて、みんな最初は慣れていなかったので、少し困惑するところもあったと思うのですが、今は板についてきましたよ。そういったところも結果に結びついているような気がしています。

──今年は単勝万馬券が2回。個人的にですが、穴をあける厩舎のイメージがあります。

加藤 別に意識はしていませんよ。本来は人気のある馬を勝たせるのが一番ですから。穴馬ばかり目立つのは、僕があまりいい馬を集められてないということ。ですから、さらにレベルの高い馬を預けてもらえるように、もっと頑張りたいですね。

──コラソンビートの話に戻ります。阪神JFは前走時に避けていた輸送や1Fの距離延長などがポイントになりそうです。

加藤 新潟への輸送はクリアしましたが、阪神はちょっと遠いので、少し懸念はしています。(今回の調整に)栗東滞在もどうですかとオーナーサイドに投げかけてみたのですが、今回は京王杯2歳Sから期間が短いし、栗東の新しい環境になじめなくて悪い方向にいってしまったら、それはそれでいやだなと思ったので。今回は安全策を取るというか、慣れた環境で仕上げて、そこ(輸送)は馬に頑張ってクリアしてもらおうという感じですね。でもこの馬はダリア賞の後に北海道への放牧を挟んで結果を出していますし、長距離輸送自体は経験しているので、大丈夫かなとは思っています。

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▲長距離輸送自体は経験済み(撮影:下野雄規)


──初めての右回りについてはどう思っていますか? 1週前追い切り(11月29日)が右回りでしたが。

加藤 確かに今までの追い切り後よりは少しコズんだので、多少はどうなのかなと思うところはあります。ただ、(横山)武史は「全然大丈夫」と言っていたので。追い切りの動き自体も良かったですし、そこはそこまで心配はしてないです。獣医師のチェックでも心音や(馬体の)中身的には、前走前と同じようなコメントでしたね。「大丈夫」と言ってくれました。

──最後に、阪神JFへの意気込みをお聞かせください。

加藤 正直、勝ちたいです。ここはチャンスだと思っています。ただ、一番大事なのは無事に出走させること。結果はその先にあると思っているので、しっかりと健康な状態で出走させてあげたいですね。

(文中敬称略)

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