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有馬記念

  • 2006年12月25日(月) 13時00分
 期待通りだったのは、勝って引退したディープインパクトだけだった。ディープインパクトの最後の1戦「有馬記念」だから、各種のイベント企画をはじめ、多くのマスコミもさまざまな趣向を凝らして有馬記念を盛り上げようと努力を重ねたが、終わってみると拍子抜けするほど盛り上がらなかった気がする。

 ディープインパクトはとうとう最後まで、怪物とか天才とか英雄などあまりに平凡すぎてディープインパクトにふさわしくないキャッチを受け入れなかった。みんなはディープインパクトを懸命に理解しようとしたが、ディープインパクトの方は、途中からひょっとすると変に騒ぎまくる周囲に辟易していた気がする。周りの関係者にさえ本当の自分は見せる必要がなくなり、一線を画していたかも知れない。

 ディープインパクトは、その独特の走法と傑出した能力で人々を惹きつけたが、周りがあまりに特別視しすぎ、ビジネスに利用しようとしすぎることを知ってしまった。ディープインパクト自身がなにをしたくて、なにを望んでいるのか、本当の理解者は次第に少なくなってしまったのだろう。いつしか宝物にまで祭り上げられてしまった。

 しかし、ファンは鋭い。今年の有馬記念、たった11万人しか競馬場に来なかった。売り上げは別の要素が左右する部分が大きいとはいえ、わずか440億円にとどまった。昨年は入場者16万人。今年の売り上げ減は実に約12%にも及んでいる。拝金のディープインパクト・ビジネスに嫌気のさしたファンがほとんどだったのだ。

 レースも案外、平凡な見どころのない内容に終わってしまった。アドマイヤメインは一応の形は作ったが、ただ行ったというだけでだれも眼中にないところがつらい。2番手がダイワメジャーになってしまったのが、レース展開全体としての誤算。距離があるから事実上のペースメーカーになってしまった同馬が途中からピッチを上げてレースを作れるわけもなく、そうこうしているうちに2番手以下は動きのないままのスローに終始。勝負どころさえ作れないまま、あっという間にディープインパクトに飲み込まれてしまった。

 それだけディープインパクトの能力が抜けていたといってしまえばそれまでだが、コスモバルクや、メイショウサムソン、デルタブルースなど、ディープインパクトの引退レースだからこそ、せめて先行の脇役の役割だけは果たして欲しかった。ただ、回ってきただけの印象はぬぐえない。11万人しか来場しなかったファンは、ひょっとして意外やつまらないレースが展開されることを察知してしまっていたのだった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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