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天皇賞・春

  • 2007年04月30日(月) 13時00分
 前日の準オープンの1600mで、秋のマイルCS級の1分32秒3が記録されるほど例年を大きく上回る高速の芝コンディションの中、史上2位の勝ち時計「3分14秒1」が記録された。古馬のビッグレースはそれが中距離の場合、時計が速くなるほどなぜか大接戦になることが知られているが、今回の天皇賞、まるで2000m前後のスピードレースのような流れで、予想をはるかに上回る速い時計の大接戦に持ち込まれた。伏兵ユメノシルシが宣言通りにハナを切り、これを高速の芝とあって「早めに好位置を確保していなければ不利」と考えた陣営がほとんどだったから、やや出負けした形のアイポッパー以外の有力馬はほとんどが好位、中団を追走の展開。前半の1600m通過は1分36秒7。また2000m通過2分02秒0は、昨年ディープインパクトが3分13秒4の驚異の大レコードを樹立したときの道中の逃げ馬のペースを、それぞれちょうど1,0秒も上回るまるで中距離戦のような流れだった。

 1997年、当時しばらくは不滅とも思われたマヤノトップガンのレコード3分14秒4が記録されたときの前半1600m通過は1分38秒8。2000m通過は2分03秒8にすぎないから、レースの後半に極端に速いラップが刻まれたマヤノトップガンの年や、昨年のディープインパクトのレコードとは違って、レースの前半からずっと流れは緩まず、それでもある程度の好位置を確保して流れに乗った馬だけが上位独占(アイポッパー以外)という、3200mの天皇賞の歴史の中、きわめて珍しいレース全体の流れだった。前半の1600mは「1分36秒7」。史上、例のない速い流れで、後半のそれも「1分37秒4」というバランスになる。

 もしかして3200m級の長距離は期待ほどは合っていないのではないか、そんな心配もささやかれた4歳メイショウサムソンの鮮やかな底力発揮。そして昨年の2冠馬のさらに広がる未来を予感させる、古馬になって最初のビッグタイトル制覇だった。先行馬の直後の馬群の少しバラけた中団、のびのび気分よくリズムに乗って追走。すぐ前に同じような脚質のデルタブルースのいる形も理想的。そのデルタブルースと同じように4コーナー手前から強気にスパートし、たくみにインを突いた形のトウカイトリック、絶妙のタイミングで外から並びかけてきた伏兵エリモエクスパイアに一度はかわされそうにもなりながら、最後は並んでの勝負強さをフルに生かした。3冠のかかっていた3歳秋は、さまざまな点でベストのメイショウサムソンではなかったのだろう。やや重苦しい印象も与えた馬体もシャープになった感があり、ストライドもさらに大きく伸びやかに映った。春の天皇賞は4歳馬有利、とくに高速決着になった今年は4歳馬の可能性が引き出された。

 いきなり強敵相手になって苦しいかとも思えたエリモエクスパイアの快走も、決してフロックではないと思える。人気のアイポッパーは懸念のスタートでやや出負け。最初から流れに乗れなかった。ふつうの年の流れならどこかで差を詰めるチャンスを探し出せたのだろうが、ペースの落ちるところが今回の3200mではどこにもなかった。隊列が決まってしまうと途中で無理な進出を仕掛けるにもいかない。ましてこのペース、腹をくくった形の直線勝負になったのは残念ながらやむを得ない面もある。結果、最速の上がり34.2秒を記録しながら4着止まり。レースの上がり3ハロンは34.8-12.3秒。底力あふれるAランクの馬であったら届いても不思議ない、各馬の早いスパートが目立った天皇賞だったから、流れに乗れなかった不利を考えると同時に、一方では実力負けの一面もあったと認めざるを得ないところもある。

 デルタブルースは異常に軽い15-15にもならない最終追い切り。仕上がっているためと考えられたが、ここまで失速するとやっぱり完調ではなかった気がする。

 日経賞組の関東馬は、まだまだ経験不足であると同時に、現時点では肝心の底力と総合力がなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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