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オークス

  • 2007年05月21日(月) 12時51分
 ゴール寸前、まるで福永祐一騎手に「オークスの女神」が全面的にほほえみかけたかのような明暗の分かれ方だった。抜け出したベッラレイアは1頭になってしまったのが、結果としてちょっと不運。ローブデコルテは、寸前まで横のミンティエアーと外からきたラブカーナと併せ馬の形になり、外のラブカーナと競る形でもう一回闘志に火がついた。

 かつて嶋田功騎手がオークスを3連勝(通算5勝)した当時も、まるで馬の能力や騎乗技術だけではないかのような不思議を思わせた記憶があるが(古いけど)、福永祐一騎手のここ4年連続の連対(3勝)は、まさに現代のオークス男なのだろう。

 馬場状態がきわめて良く、また伏兵が引っ張ったこと。さらには、そう速い脚がないため早めに動くことが予想された武豊騎手のザレマが先行抜け出しを計ったため、2分25秒3のオークスレコードが記録された。結果、脚を余して負けたなどさすがに1頭も存在せず、その敗因にレースの流れうんぬんを挙げた陣営はいなかった。

 走破時計と今年の3歳牝馬のレベルがどこまで結びつくかは、次週に同じ2400mの日本ダービーもあるので判断は持ち越されるが、おそらくほとんどの馬が、現時点で、長距離区分の2400mで発揮できる能力はほぼ出し切っただろう。この観点で非常に中身の濃いオークスだった。

 桜花賞の上位馬と、フローラSの上位組、さらにはスイートピーSの上位馬、忘れな草賞の上位馬もみんなほとんど差がなかった。ここに注目するなら、今年の3歳牝馬は考えられていたよりずっと駒が揃っているといえる。直前で回避せざるを得なかったダイワスカーレット、さらにはウオッカの2頭は、もしこのオークスに出走していたなら、距離適性は別にして、もっとずっとすごい内容を見せてくれたのではないか? そう想像するのも、このあとまた対戦はずっと続くだけにきわめて楽しいことだ。

 ローブデコルテはどちらかといえばマイラー型にみえ、体形もスピード型のそれだが、父コジーンに連なる父系の距離適性の広がりは知られるところで、また母の父こそスピード色が濃くても、ローブデコルテの母は3冠牝馬スティルインラブの母ブラダマンテの半妹になる。いとこ同士。ゴール寸前もうひと伸びしたあたりが一族の底力なのだろう。

 ベッラレイアは好スタートを切って、もうごく自然に武豊騎手のザレマをぴたっとマークできる位置。折り合いもピタリ。坂を上がってゴール寸前まで確勝の形で、完全に勝ったと思えたが、馬体が離れてしまったあたりほんのちょっとだけ運がなかった。ビッグレースでこういう人気馬に乗るケースは少ない秋山騎手だが、賞賛に値する立派な2着惜敗だろう。秋がある。さらにはもっと先もある。飛躍のきっかけにしたい。

 ミンティエアーのパドックの気配は素晴らしかった。レースでもほかの有力馬をマークできる絶好の位置。坂を上がった地点では2着はこの馬かと見えたが、あと1Fで力が尽きた。キャリアの差もあるだろうが、2400mは少し長かった気がする。

 この距離2400mがちょっと長かったのは、最後は失速したザレマも同じで、バランスは良くみえても大型馬ゆえのスタミナのロスもある。半兄というより四分の三兄弟になる上のマルカシェンクと同様、ベストは2000m以下なのだろう。突っ込んできたラブカーナは惜しかった。上がり3Fの数字だけ比べるならこの馬がナンバーワンの34.6秒。ただし、のちになるとこれは記録としては数字のもたらすトリックになり、脚を余したわけではまったくない。ゴール寸前、さすがに止まっている。ピンクカメオの5着は距離、ローテーションを考えるとさすがだった。

 上位馬が揃って素晴らしい内容を示したことにより、ウオッカのダービー挑戦はさらに一段と興味深いものとなった。本質はスピード型ではないのか、今年はスローの1600mしか経験していない弱みがでるのではないか、などの不安も大きいが、好勝負してまったく不思議ない根拠がオークスによって示されたといえる。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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