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宝塚記念

  • 2007年06月25日(月) 12時50分
 この季節だから雨の影響を受けるのは仕方がない。先週の硬い印象さえ与える高速の芝が、週末の雨で宝塚記念時は「稍重」。直前にまた雨足が強くなって重馬場に近いコンディションになってしまったが、このあと約3か月後に凱旋門賞挑戦の展望を持つウオッカ、メイショウサムソンの2頭にはこの程度の渋馬場は楽々とこなして欲しいという期待も大きかった。

 負けたとはいえ、メイショウサムソンは一応こなした。アドマイヤムーンにぴたっとマークされる位置取りになり、スパートのタイミングまで合わされてしまった。直線は岩田騎手=アドマイヤムーンはメイショウサムソンに馬体を併せにいくのではなく、明らかに外の方が伸びる馬場状態を考え、少し馬体を離すように外へ出した。武豊騎手=ポップロックはこの2頭を見ながらさらにその外へ。

 3歳後半から一戦ごとの充実を示すアドマイヤムーンは、日程のきつかった香港で減った馬体が戻りまた一段とパワーアップ。秋の天皇賞を候補ナンバーワンとして展望できる立場にたった。ベストは2200mぐらいまでであることは陣営も承知で、そのあとはまた今年も香港Cだろう。

 底力の要求されるこういう馬場はポップロックにもっとも有利かと思えたが、アドマイヤムーンをマークしながらもうひとつ伸びなかった。4歳の2頭に上昇度で一歩譲ったのと距離もやや不足。敗因はこの2つが半々だろう。メイショウサムソンは同期のアドマイヤムーンに差されてしまったが、体つきはまた一段と良くなっている。秋には凱旋門賞へ……の大きな展望は変わらない。渋馬場もこなした。位置取りも自在になった。今回の距離はよりアドマイヤムーン向きだったということもできる。

 ウオッカには、予想や馬券を少し離れての大きな期待と願望もあった。3歳のまだキャリア7戦だけの牝馬。死角の大きさを考えれば、おそらく1番人気になること必至のこの宝塚記念。少し評価を下げて嫌う方が明らかに賢明だろう。だが、そういう死角が現実のものとなって、古馬の大きな壁に突き当たって、やっぱりアドマイヤムーンや、ポップロック、メイショウサムソンの方が先着しただろう、強かっただろう。となってもそれはこれまで何年も何十年も経験してきた競馬とまったく同じで、なにも変化しない積み重ねの歴史は、それはそれだけのことにすぎない。つまらなく思えた。

 日本の調教馬は強くなった。世界のトップに見劣ることはない。海外のビッグレースでも十分勝ち負けに持ち込める。といわれているものの、日本調教馬が世界の頂点に立つビッグレースを制したことは、実はただの一回もない。3歳のウオッカには、ひょっとしてディープインパクトの雪辱を果たせる可能性さえ少しある、と思えた。有利な3歳馬だから…。しかし、冒険のこのきつい日程が裏目と出て、宝塚記念でダメージを受けては、大きな展望は根底から崩れることになる。陣営もそれは覚悟だったろう。

 ウオッカは前回のダービーより心なしかイラついているように映った。馬場状態も味方しなかった。重馬場に近くなったという意味ではなく、好スタートから少しでも早く他馬の後ろにつけようと試みたが、いきなりインティライミなどと接触したうえ、外に出すチャンスがほとんど見出せなかった。途中までかかり通しだったろう。直線、インをついたのはもう形作りで4コーナーを回った地点で四位騎手はあきらめざるをえなかった。

 少なくとも、角居調教師自身は最初はまったく考えてもいなかった宝塚記念出走は、オーナーと協議の冒険の出走を、挑戦のプラス思考に換えることで昇華することにしたようにみえたが、結果、少なからぬ後悔もある気がする。問題は、ウオッカ自身にダメージがなく、この経験がプラスとなれば敗戦もまた大きな糧に転じるのだが、秋に向けて体調の下降がないことを希望するしかない。余分な課題を呼び込んだ危険はある。

 日程が詰まるのは、ときに予想外の変調をもたらしてもそれはビッグレースを勝とうというのだから仕方がない。犠牲は必ずある。ウオッカもそうだが、ダイワメジャーも今回は安田記念激走の反動が少なからずあったろう。体がさびしくなっていた。カワカミプリンセスは確実に良くなっていたが、復活にはクイーンSとか確勝の一戦を選んで、そのあとにビッグレースに改めて挑戦するのも考えられる手段だろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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