有馬記念は、車載テレビでの観戦になった。昨年に続き、今年も帯広競馬場に行っていたのである。ここでは、駐車場に止めた自分の車で、小型テレビを見る以外にレース観戦ができない。多くの地方競馬が中央GI競走の馬券発売を実施しているが、帯広はまだそこまでやっていない。今後どこかでそうした要望が出てくるかも知れず、もし中央との併売が実現すれば、おそらく集客力は相当なものになるだろうが、そうなると肝心のばんえいが売れなくなる懸念があり、これは単純に解決できる問題ではない。
ただ、一定のニーズは確実にあるはずで、帯広の中央ファンは、自宅でPATによる購入か、さもなくば、釧路あたりまで馬券を買いに遠征しなければならない。帯広〜釧路は2時間程度もかかる道のり。遠距離移動に慣れた道産子であっても、さすがに遠すぎる。かなり無謀な提案だとは思うが、日程的にばんえい競馬は中央競馬と重複しており、併売はできないだろうか? 「軒先貸して母屋を取られる」ことも他の地方競馬を見ていると十分に考えられるところだが、まず競馬場に客を集めるところからすべてが始まる。
このほど、来年度のばんえい競馬の日程が帯広より発表され、何とナイターは、5月9日から始まるらしい。終了は10月19日。計72日間にも及ぶロングラン開催だ。しかも、開催曜日は、現行の土日月から金土日に変わるという。中央GIとの併売が実現すれば、ばんえいナイターにそのまま居残る中央ファンも出てくるような気がするのだが…。
さて、翌朝。駅前のホテルを出て午前6時に競馬場へ赴いた。「朝の調教」を撮影するため、である。確か昨年のクリスマスイブにもここで調教を撮っていた記憶があるが、なんともおかしな巡り会わせになった。
ばんえい競馬の調教は、気温の低下するこの時期になると、馬体の全身から湧き上がる汗と荒々しい鼻息などで、何とも幻想的な光景が現出する。おびただしい数の大型馬が、黙々と橇を引き、周回コースを時計回りに歩く。日の出前の時間帯に、競馬場のスタンドから照らされる照明だけを頼りに、多くの馬が調教場に繰り出す風景は、被写体としても魅力が大きい。
しかし、朝の調教を撮影することは、現状ではかなりハードルが高いのが難点だ。運営を委託されているオッズパークばんえいマネジメントによると、「原則として、取材以外には許可していない」とのこと。今回は、たまたま知人が協賛レースを行なうため帯広入りしており、その一行に加えてもらうことで実現したわけだが、一ファンの立場では調教場に足を踏み入れることができない。
絶好の被写体になり得るのに、壁がかなり厚くて高いのはいかにも残念だ。おそらくばんえいファンならずとも、アマチュアカメラマンの中には朝の調教を撮りたいと希望する人がかなりいるはず。せめて、曜日を指定したり、場所を限定するなどのルールを定めた上で部分的に一般開放できないものだろうか? 直接、売り上げには結びつかないとしても、長い目で見れば、ばんえい競馬の宣伝に一役買うことになるのは間違いないのだから。
サラブレッドによる平地競馬では、まず調教を一般開放することは無理だろうが、ばんえいならばある程度それが可能に思える。軽種馬ほど神経質ではないから、というだけの理由だが…。馬の歩くスピードも撮影向きである。太陽がようやく顔を出そうとする未明から早朝にかけての時間帯がもっとも見ごろになる。この光景を見るたびに「これは絵になる」と思わずにはいられなくなる。
お役所による運営から民間会社による運営に変わった利点を生かさない手はない。前例がない、だの、職員を配置できない、だのという理由で門戸を閉ざすのは、いかにも説得力に欠ける。要望が強ければそれに応えるべきなのである。
余談になるが、撮影時間に“究極のサービス”を体験できた知人もいた。「調教の橇の上に乗せてもらう」というもの。ファンサービスに積極的に取り組む谷あゆみ調教師が、調教の途中に通りかかり、「乗ってみない?」と誘ってくれたのだ。もちろん、こんなサービスをしてくれる人は例外だろうが、実際に橇に乗せてもらった本人はさぞ感動したことだろう。競馬場内を美化することや分煙化することとともに、こうした地道な“活動”も、ばんえいファンを増やすことに貢献するはずである。
さて、地方競馬にとっては今年も非常に厳しい1年だった。改めて、それぞれの地方の置かれている条件下で何ができるか、どんな特色を打ち出せるかを考えるべきだと強く感じている。ばんえい競馬とは異なり平地の地方競馬には中央という巨大な存在が立ちはだかっており、同じことをしていたのではまったく太刀打ちできない。言葉にするのは易いが、「中央とは似て非なる魅力」をどう確立して行けるか。それが、生産地、とりわけ日高の今後をも大きく左右することになる。