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支庁制度改革と日高

  • 2008年01月22日(火) 23時49分
 北海道は明治の昔より14の支庁に分けられ、発展してきた。支庁と聞いても本州以南の人々にはほとんど馴染みのない用語だろうが、要するに、広大な面積を持つ北海道を便宜上14分割して、それぞれ「支庁所在地」を置き、そこを道の行政の出先機関としたわけである。

 何せ北海道は広い。全国都道府県順位で2位の岩手県と比較しても、面積は5倍以上にも及ぶ。そんな広大な土地に540万人程度しか人口がない。しかも、そのうち約半数程度が札幌を中心とした圏内に居住する。札幌圏以外のほとんどは、いわゆる過疎化が今も着々と進行中である。

 さて、この日高は、面積が4812平方km。本州で言うと、東京都と神奈川県を合わせた面積よりもやや広いことになる。そこに住むのはわずか8万人余。競馬ファンの方々には競走馬生産の主生産地として知られているが、おそらくここを訪れたことのある人はそれほど多くはあるまい。

 前置きが長くなった。現在、北海道では、この14に分割された支庁を再編し、9つの「総合振興局」に統合しようという計画が進行中である。14のうち6つの支庁が事実上「廃止」され、それぞれ隣の支庁に併合される形だ。当然、日高もそうした再編計画の下で廃止対象にされており、このまま行くと、室蘭や苫小牧などのある胆振管内に吸収されることとなる。胆振と日高を合わせて「日胆(にったん)」と称し、総合振興局の置かれるのは現在、胆振支庁のある室蘭市だ。ここ浦河からだと車でざっと4時間かかる。札幌よりも遠い距離である。

地域意見交換会1

 去る1月21日(月)、浦河町総合文化会館大ホールを会場に、「支庁制度改革について」の「日高地域意見交換会」なる集会が開催された。主催は、北海道企画振興部地域主権局。つまり、北海道庁の支庁再編計画を推進する「お役人」が、それぞれの地域に出向いて「地元の方々のご意見を伺う」ための催しなのである。

地域意見交換会2

 会場となった文化会館大ホールは固定席で700人収容だが、午後6時半の開会時には満席状態となった。遅れて来た人々は後ろで立ち見を余儀なくされるほど。この支庁再編問題の関心の強さが窺えるような集まり方であった。

地域意見交換会3

 舞台には日高支庁長や北海道副知事などの他、道庁の幹部職員が並び、配布した資料を基によどみない口調でこの再編計画について「説明」する。だが、日高でも、とりわけ支庁所在地でもある地元浦河の住民にとっては「支庁がなくなる」ことはイコール「地域が崩壊する」ことと同義語なのである。

 現在、日高支庁に勤務する職員は約300人という。だが、それ以外にも、道の出先機関としては、税務署、保健所、裁判所、土木現業所など多岐にわたり、仮に日高支庁が廃止となれば人口が3000人は減少してしまうだろうと言われる。町の商工業者にとってはとりわけこの人口減は商売や事業に壊滅的な影響を及ぼすとの懸念があり、ここは何を措いても「絶対反対」の立場なのだ。

地域意見交換会4

 道側の説明が終了した後「意見交換会」の時間に突入すると、予想通り、手厳しい意見が続出した。「地域を殺すのか」「何から何まで札幌に集約するのは納得しかねる」「道の職員たちのエゴだろう」などなど。

 発言者の大半が地元浦河町民で、同じ日高管内でありながらも、新冠町や日高町(旧・門別)、平取町などの町民からはついぞ声が上がらなかった。その背景には、支庁再編問題が、それぞれの住む町の地理的条件に大きく左右されており、受け止め方が各町まちまちであることに起因する。端的に言って、日高西部の各町(前述の新冠や日高、平取など)は、日高道から道央道経由で、札幌までは約1時間余の圏内にある。日高東部に居住する私たちとはとても同列には論じられないのである。

 翻って、サラブレッド生産に関しても、同様のことが言えるだろう。現在、浦河という老舗の生産地を事実上支えているのは、JRA日高育成牧場の存在であり、もう一つは、それに隣接するBTC軽種馬育成調教センターの存在だ。この2本の屋台骨が、浦河という古くからの生産地としての存在価値を辛うじて守っているのである。

 この二つの施設が存在しなければ、浦河という町は、競馬の世界においても、その知名度を著しく低下させていたに違いない。生産の主流が徐々に日高西部から胆振地方(社台グループの各牧場はこの胆振管内にある)に移りつつあることを否が応でも認めざるを得なくなっているのが現状なのだから。

 いずれにせよ、この支庁再編問題は、日高という地域(とりわけ浦河町)にとっては、文字通りの死活問題となる。サラブレッドという特殊な動物を生産し育成するにしても、それに携わるのは人間であり、人が住む以上、ただでさえ不便な思いをさせられている今よりさらに全てのことがより不便になり、より遠くなってしまうのは、到底容認できないことなのだ。

 この再編問題は、功罪相半ばするならまだしも、おそらく地元の私たちにとってはメリットなど何一つない結果に終わるだろう。そして、町に活気がなくなった時、それがサラブレッドの生産と育成にも何らかの形で必ずや影響が出てくることが懸念される。大袈裟に言うならば、日本の競馬の根幹をも揺るがしかねない問題に発展する可能性がある。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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