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ばんえい競馬、19年度開催終了

  • 2008年03月25日(火) 23時49分
 3月24日(月)、平成19年度のばんえい競馬が幕を閉じた。昨春4月に、新たなスタートを切ったばんえい競馬は、25開催150日間で、129億3397万1600円を売り上げ、目標額を17億8159万800円上回った。

 一日平均では8622万6477円。徹底したコスト削減と場内美化や各種イベント、そして積極的な観光ツアー客などを呼び込んだことが奏功し、まずは初年度に掲げた目標額をクリアできたことに賛辞を送りたい。

 ばんえい競馬のラストを飾るのは「ばんえい記念」である。23日(日)、この時期としてはほとんど記憶にないほどの行楽日和に恵まれた帯広競馬場は、午前中から多くのファンが詰めかけ、昨年よりも500人ほど多い3932人が集まった。

観客席

 昨年も好天だったが、おそらく今年はそれ以上の陽気だったと思う。しかも、帯広は3月に入ってからほとんど雨も雪も降っておらず、そのために馬場はほとんど“砂漠状態”の水分量。最終的には0.6%まで乾燥が進んだ。

 ばんえいの場合、乾燥している状態は「重馬場」なのである。平地と逆で、雨や雪などによって馬場が滑りやすくなると、橇を曳く馬にとってはその分だけ楽な馬場状態なのだ。

 ところが、0.6%などいう数字は、馬にかなりの負担を強いることになる。どれほどの負荷がかかるのかは端的に走破タイムとなって表れ、今年のばんえい記念は過去最長の遅い時計での決着となった。

砂埃舞う馬場

 乾燥した状態なので、観客席にも容赦なく砂埃が飛んでくる。東寄りの風に乗って舞い上がった砂埃に遮られて、ゴール前(ここだけは散水してあり、目視が可能だ)までほとんど展開が見えないレースが続出した。多くの人々がカメラ片手に観戦していたが、いつ故障してもおかしくないくらいの砂塵だったと思う。

 そんな過酷な条件の下、「第40回ばんえい記念」が午後4時半にスタートした。重量は牡1000kg、牝980kg。乾燥し切った馬場に、このレースの時だけ課せられる重さ1トンの橇を曳く馬たち。もうもうと巻き上がる砂煙の中から、最初に第二障害を越えたのは1番人気のトモエパワーで、そのまま押し切って見事人気に応えた。2着にはミサイルテンリュウが入り、このレースで引退が決まっているアンローズ(牝9歳)は3番人気と多くの支持を集めたものの7着に終わった。

トモエパワー

ミサイルテンリュウ

アンローズ

 さて、この日は東京から須田鷹雄氏や斎藤修氏(ハロン編集長)などの面々が駆けつけ、矢野吉彦アナウンサーなどとともに「トークショー」を行なった。その場に、ちょうどグリーンチャンネルの企画で競馬場入りしていた「TIM」の二人が加わる一幕もあり、大いに盛り上がった。また、ファンファーレは地元の陸上自衛隊による「生演奏」で、やはりこの日だけは“特別な日”であることを強く印象づけられた。

TIMなど

 とはいえ、入場人員が昨年よりも増えていながら、逆に売り上げは前年比約1900万円減の1億5814万2600円。つまり、人はたくさん入っているのに、馬券が思ったほど売れないという厳しい現実がこの日も顕著に表れた。民間企業による運営に変わったことで、ずいぶんイメージは向上したはずだが、1年を振り返ると、約1.5倍に増えた入場人員と比べ、1人あたりの馬券購入単価は逆に2割程度落ち込んでおり、今年度(20年度)は、その辺をどう解決して行くかが問われてくる。

 各レースに供される賞金は、多くが1着10万円〜12万円程度。ばんえい記念の日こそ、企業協賛レースなどもあって25万円が2つ、30万円が2つ組まれる“豪華版”だったが、最終日(24日)は普段の日と同様に、全11レース中、9レースまでが11万円〜13万円、10と11の二つのレースが28万円である。存続と引き換えに賞金や手当ての削減案を呑んだ形の厩舎関係者が、果たしてどこまで我慢を強いられるものか、気になる。

 地方競馬全国協会のデータベースを検索すると、ばんえい厩舎関係者の収入が収得賞金額からおおよそ推測できる。リーディングを争うトップレベルの調教師や騎手でも、獲得金額が3000万円前後。進上金は調教師で10%、騎手で5%と決まっているので、それぞれ300万円、150万円という金額がはじき出される。他に手当て(騎手ならば騎乗手当てなど)がつくとはいえ、仕事の過酷さと収入とがまるで合っていない現象がより顕著になっているはずなのだ。

 その辺りの事情は馬主にとってもまったく同じで、現在の賞金水準では馬を所有し続ける意義がかなり失われつつある。少なくとも「馬で儲ける」ことはほとんど望めない。いつかまた良くなるだろう…と信じて、歯を食いしばって耐えるか、力尽きて馬主稼業から足を洗うか、岐路に立たされている馬主は少なくないものと思われる。

 新鮮さで勝負できたのはこの1年のみ。4月から始まる新年度にはまた新たな集客作戦が求められてくる。

 理想的には、現在の倍くらいの売り上げが欲しいところだが、当面それは望めず、だとしたら、現状のままで、厩舎関係者の生活をどのように守って行くかを考えなければなるまい。ばんえい競馬は、生産から競走まですべて自己完結型のサイクルであり、まず馬ありき、である。他の地方競馬のように、他地区からの遠征などはあり得ず、人的交流もできない。必要頭数が生産され、且つ入厩しなければ、競馬は成り立たない。足元をどうやって固めるか、試練の1年が待っている。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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