スマートフォン版へ

天皇賞・春

  • 2008年05月05日(月) 13時00分
 予測された通り厳しい流れの3200mになった。近年の天皇賞・春は芝コンディションの格段の良化、スピード能力あふれる中距離型が大半になったこと、などの要因が重なり、スタート直後の1F以外、ハロン13秒台のラップが刻まれることはめったになくなった。今年のホクトスルタン(横山典騎手)の先導した流れも最初の1F以外13秒台のラップはなく、ほぼ一定の平均ペース。前半の1000m61.1秒。次の中盤の1000mも61.9秒。ずっとペースは落ちなかった。

 2000m通過は2分03秒0。数字のうえではもっと厳しい流れの年もあるが、息の入れにくい一定のラップが刻まれた後になって、なおかつ最後の3F「34秒台」の加速が可能なのは圧倒的な総合能力と、スタミナの裏づけのある馬に限られる。

 4歳アサクサキングス、ホクトスルタンの2頭は、同じ京都コースの昨秋の菊花賞より2000m通過地点で1秒以上も速い流れを楽にこなし、ともに直線先頭に並んだ3000m通過は3分02秒6。3分05秒台にとどまった半年前の菊花賞のころより大幅にパワーアップしていた。ホクトスルタンはあまりにもスタートが良すぎたため、あえて目標になる逃げの形を今回も受け入れ、自身の前後半1600mは「1分37秒9=1分37秒7」。

 長距離のペース判断に一分の隙もなし。横山典騎手のまたまた作り上げた芸術にも近い文句なしのバランスラップで、ホクトスルタンはふつうなら勝ち時計にも等しい3分15秒6で乗り切っているから、相手が悪かったとしかいいようがない。もっとたくましくなる来年だろう。アサクサキングスも人気の中心馬にふさわしく、また4歳馬らしく、ホクトスルタンの作るペースに乗って正攻法のレース運びに徹した。ホクトスルタンを捕らえて3分15秒5。現時点での能力はほぼ100%近く出し切っている。

 長い故障(ボルト固定)を乗り越え復活したアドマイヤジュピタの秘める能力はあまりに素晴らしい。アルゼンチン共和国杯で長距離適性を確認し、前走3000mの阪神大賞典では58kgを背負いながらゴール寸前2着以下を楽々と突き放していた。ひょっとすると不利に見えた出負けも、息の入れにくい流れだったから結果はかえってプラスだったかもしれない。また、こういう流れを読んで意識的に前半は無理なく追走の手に出たメイショウサムソン(武豊騎手)がすぐ前にいたのも、「落ち着いて進めた。あわてないで良かった…岩田騎手」につながったのだろう。しかし、ここまでのステップレースとはまったく異なるレース運びで天皇賞・春を制したのだから、見事だった。

 フレンチデピュティはその産駒が3200m級のGIを勝ったことにより、広がる可能性を秘めた種牡馬としてさらに評価が高まるだろう。また、現在はスランプに陥っているが、3000mの菊花賞を猛ペースで飛ばし、3分03秒0で寸前まで粘ったアドマイヤメインとはいとこ同士。アサーション(父アサ―ト)のファミリーの持つスタミナ能力も改めて脚光を浴びることになる。

 3連覇こそ成らなかったが、しばらく冴えを欠いていたメイショウサムソンもさすがだった。今回はパドックでも気迫を前面に出していた。海外遠征の中止による日程変更に伴い、調教も目標のないトレーニングに陥り、メイショウサムソンにもつらいストレスの期間があったのだろう。負けたとはいえ今回のレース内容なら、改めての凱旋門賞挑戦も見えてきた。挑戦者の立場に戻ることができたのは大きい。

 逆転に期待したトウカイトリックは、アサクサキングスと並んでの正攻法。強気の戦法に出た結果、スタミナはあっても総合力で見劣ったのだから止むを得ない。

 ドリームパスポートは連休の輸送に予想外の時間がかかってしまった不利が大きかったのだろう。中間の気配は決して悪くなかっただけに、まだまだ復活のチャンスはある。

 ポップロック、アドマイヤフジは、どちらかといえば中距離タイプに近い。とくにポップロックは2400m前後でこそ。軽量53kgのメルボルンCでは快走したが、相手と時計を考えると今回の3200mはきつかった気がする。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング