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ヴィクトリアマイル

  • 2008年05月19日(月) 12時50分
 今回がGI級のビッグレース初挑戦。上がり馬エイジアンウインズが坂上から鋭く抜け出し、ウオッカ以下を完封してみせた。前走の阪神牝馬S=1400mは展開に恵まれた一面もあったが、今回は初めての1600m、おまけに初コース。スローは分かっていても「最初からハナに行く気はなく」意識的に差す形をとり、狭いところをこじ開けて抜け出したから素晴らしい。昨年の秋から芝に転じて[4-2-0-0]。一気にトップグループの仲間入りを果たした。

 陣営の成長を促しつつビッグレースに狙いを定めた手法も見事。とくに4歳になってからここまでの4戦は、1戦ごとに急速にスケールアップし、目下の3連勝の中では今回が一番、格段に強かった。カネヒキリを送ったあたりから大きく評価を変えさせている種牡馬フジキセキは、産駒にまたまたトップホースを加えた。ここ一番のビッグレース向きの底力には欠ける……とされた当時もあったが、種牡馬がこういう形でだんだんその評価を変化させたのもきわめて珍しい。まだ16歳。シャトル種牡馬としての要望も一段と強まること必至だろう。

 注目のウオッカは、一応は2着を死守したから面目は保ったとはいえるが、期待された東京コースでの「真価発揮」とはかなり隔たりがあった。坂上の地点、最初はどうして武豊騎手はあそこまでスパートを待っていたのだろうと思えたが、「最近のゴール寸前の詰めの甘さをカバーするため」あえて待った作戦という。これは納得。リプレイの確認を繰り返すとエイジアンウインズとほぼ同じ地点から、だいたい同じようなタイミングで最後のスパートにかかり、完全に鋭さ負けしている。上がり3Fの記録として残る数字はエイジアンウインズの33.4秒に対し、ウオッカのそれは33.2秒。

 のちに数字だけみると、鋭く追い詰めながら届かなかったかのような記録になりかねないが、残り300mぐらいの地点から同時にフィニッシュにかかった。そして追い比べで負けただけでなく、ゴール寸前やっぱり根をあげるように止まっている。角度を変えて見ると内のブルーメンブラットにも差し返されそうになっている。

 まだ完全復活には遠い。と同時に、今回は体つきも細く映ったから必ずしも完調ではなかったとすべきだろうが、ウオッカは3歳春の桜花賞でも今回と同じような不可解な負け方をした。前回のドバイでも、ジャパンCでも、秋華賞でも、ゴール寸前になって急に脚いろが鈍りあきらめている。スパートを遅らせた今回もほぼ同じような負け方だった。

 日本ダービーを「史上最速の上がり33.0秒」で独走した天才は、対ダイワスカーレットとの比較とか、歴代のダービー馬との比較とか、そういう他馬との比較うんぬんの範疇を超えた不思議なダービー馬なのだろう。ダービー馬が「特別な存在」とされるのは、ダービーでこそすべての能力を爆発させることに成功したからでもある。

 早めに進出、一歩早く抜け出したブルーメンブラットは、スローの流れを利し自身の上がりは33.6秒でまとめたから力は出し切っている。マイルもこなしてはみせたが、やはり1400mのほうが合っているのだろうか。

 残る200mぐらいのあいだに3着以下は決定的な差をつけられてしまった。こういう超スローゆえに現時点での能力差、あるいは状態の差が明確に出てしまったが、ニシノマナムスメはまだこれからパワーアップがある。非力感は薄れてきた。ベッラレイアは中間の体つきは素晴らしく見えたが、長期休みでの遠征は厳しかったのだろう。馬体重うんぬんではなく全体のムードが頼りなく映った。ともに次走の巻き返しに期待したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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