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賞味期限と3歳王者、そして馬事文化賞功労賞に思うこと

  • 2019年01月10日(木) 12時00分
 今、札幌の生家に来ている。冷蔵庫をあけたら、賞味期限が12月30日の卵がたくさん入っていた。年を越しているのでずいぶん経ったように感じられるが、日数にすると10日ほどだ。「安全に食べられる期限」の「消費期限」を10日も過ぎていたら危ないだろうが、「おいしく食べられる期限」の「賞味期限」をその程度オーバーしたぐらいなら、火を通せば大丈夫か。明日の朝、自分でスクランブルエッグにして食べてから、静内の藤沢牧場に行こうと思っている。

「賞味期限」と「消費期限」は明らかに定義が異なるから困らないが、2018年の年度代表馬と最優秀3歳牝馬に選出されたアーモンドアイが強すぎて、「3歳女王」がすなわち「3歳王者」ということになり、例年なら「3歳王者」と呼ばれる最優秀3歳牡馬のブラストワンピースをどう呼べばいいのか、ちょっと考えてしまった。

 ひとつ、確実にブラストワンピースが「3歳王者」と呼ばれるようになる方法がある。それは、今後、アーモンドアイとの直接対決で勝利をおさめることだ。一度でも勝っておけば、のちに2018年の競馬を振り返るとき、「3歳王者ブラストワンピース」という言葉が、違和感なく受け入れられるだろう。

 アーモンドアイもブラストワンピースも間隔をあけてレースを使われている。そうしながら結果を出せるのは、中間、ノーザンファーム天栄でしっかりケアされているからということもあるのだが、となると、古馬になってからは両馬ともGIにしか出ない、ということもあり得そうだ。どちらもシルクレーシングの馬だから、オーナーサイドとしては上手く使い分けていきたいところだろう。

 ということは、まだ当分、ブラストワンピースを「3歳王者」とは言いづらい状況がつづくことになるのか。

「3歳女王」も「3歳王者」も、「2歳女王」も「2歳王者」も、それ自体は正式な定義を有する言葉ではなく、便宜上使われているにすぎない。

「スプリント王」や「マイル王」も同様なのだが、2018年に関して言うと、最優秀短距離馬となったファインニードルが文句なしの「スプリント王」となった一方で、「マイル王」と呼べる馬は現れなかった、ということになる。

 馬事文化賞は『競馬と鉄道 あの“競馬場駅”は、こうしてできた』を書いた矢野吉彦さんが受賞した。そして、50年ほども競馬評論活動をつづけてきた原良馬さんが馬事文化賞功労賞に選出された。矢野さん、原さん、おめでとうございます。

 選考委員ではない私が言うのも何だが、画家の久保田政子さんも、馬事文化賞功労賞を受賞していいだけの仕事をしてきた人だと思う。競馬博物館に展示されているトウショウボーイ、メジロマックイーン、タイキシャトル、テイエムオペラオー、ウオッカといった顕彰馬の油彩を描いたほか、ディック・フランシスの競馬ミステリーシリーズの日本語版単行本のカバー装画などを描いてきた人だ。ウィキペディアには「8000頭以上の馬の絵を描いてきた」と記されているが、ずいぶん前に、長年目標としてきた1万頭を突破している。

 久保田さんからの賀状に添えられたメッセージで、私が競馬ミステリーを書いていることに触れ、ディック・フランシスが来日したとき、カバー装画に用いた絵を夫人にプレゼントした、と記されていた。そんなふうに何でも気前よくプレゼントしてしまうし、自作のコレクションに価値を見いだすタイプではないので、自身の装画がプリントされたフランシスの本のカバーは数冊ぶんしか手元にないという。以前、都内の喫茶店で担当編集者を紹介したとき、自己紹介の材料として、それらのカバー数部をスーパーの袋に無造作に入れて持ってきていて、学生時代にフランシスの作品を読んでいたという編集者を感激させつつ、驚かせていた。

 前にも書いたかもしれないが、出版社や国会図書館に問い合わせて久保田政子さんの装画がプリントされているディック・フランシスの競馬ミステリーシリーズのカバーを集め、その展示会を、競馬場か、競馬博物館などで催したら、素敵なものになると思う。

 2019年最初の熱視点も、これまでどおり、とりとめのない話になってしまった。

 この作風が変わることはおそらくないと思いますが、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

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作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊競馬ブック、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。netkeiba.com初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ダービーパラドックス』。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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