スマートフォン版へ

ホッカイドウ競馬と岩手競馬の不祥事に見える構造的問題

  • 2018年11月08日(木) 12時00分
 11月1日に門別競馬場で行われた北海道2歳優駿で、1着と2着の着順が誤って判定され、そのまま確定した。主催者は、確定の約6分後に誤りに気づいていながら、発表は翌日の夕刻になった。

 その対応の遅さもさることながら、発表された判定写真を見た多くのファンは、どうしてこれで着順を間違えたのか、驚きを通り越して、不思議に思ったのではないか。

 2カ月前の震災からの復興に向けて、主催者も、厩舎関係者も、そしてファンも、同じ方向を向いて頑張っていたさなかの出来事だけに、残念でならない。

 ホッカイドウ競馬は、ネット発売の好調さを背景に売上げを伸ばしてきた。

 ネットで日常的に情報を集め、発信し、金銭を動かしているユーザーは、今この瞬間にも情報の変化をとらえるべくアンテナを張りめぐらせている。そのスピード感からすると、翌日の発表というのは、不信感を抱く対象より下位の、不合格、不適格の対象とみなされてもやむを得まい。

 もちろん、主催者サイドが、当日、厩舎関係者への対応などに追われ、何を決めるにも知事の承認を得なければならない体制のもと、最善を尽くすべく、彼らなりの「最高速」で動いていたことは承知している。

 そして、現在、ホッカイドウ競馬の公式サイトのトップページには、お詫びの文言が大きく掲載されている。そこには、「決勝審判員を増員し新たな体制で取り組む」とも記されている。

 しかし、これは単にひとつのイージーミス、つまり個別の問題として処理する性質のものではなく、構造的な問題に起因していると言えなくはないか。

 審判員を増員するとのことだが、誤審をした審判員も現職にとどまるのだろうか。今回は特殊なケースなので、誤審をした審判員の氏名を公表する必要はないと個人的に思う。が、当該審判員の略歴を紹介し、「これくらい競馬運営のキャリアのある人だがミスをした。キャリアを生かしてやり直します」という意思がファンに伝わるようにすることぐらいはできないものか(JRAはレープロに裁決委員の氏名を載せている)。

 まさか、今回誤審をした審判員が、先日問題になった全日空と日本航空のパイロットのように勤務前に飲酒していたなどということはないと思うが、ナイター開催だけに、それを明確に禁じる規程を、先手を打って制定する(もうあるのかもしれないが)といったことをしても、けっしてやりすぎではないと思う。

 震災のときに感じたのは、門別競馬場ではなく札幌の北海道庁にある農政部競馬事業室が担当(主催母体)で、知事の承認がないと開催の再開日も決められない体制では、何をするにも動きが遅くなる、ということだ。それは現在の知事が競馬に詳しいとか詳しくないといったこととは別の問題だ。もっと、現場の運営者の権限を強くしないと、ファン離れに直結する対応の遅さは解決しないだろう。

 2度と同じ問題を起こさないようにするには、審判員の増員以上に、ホッカイドウ競馬が、真の「競馬のプロフェッショナル」かつ「運営のプロフェッショナル」によって運営されている、と胸を張って言える体制にすることが求められるのではないか。

 ここで言う「プロフェッショナル」とは、自分の仕事に誇りと責任を持ち、成功すればステイタスも収入も上がり、失敗すればそれらが下がる――という立場で長年踏ん張りつづけることのできる人だ。

 そういう仕事はお役所には無理だからといって、民間企業に運営を委託したら、ちょっと採算が合わなくなったら手を引いたりされかねないので、やはり、今携わっている人たちに頑張ってもらうしかない。

 もうひとつ、これはJRAにも言えるのだが、写真判定が出るまで、諸外国に比べて時間がかかるのもどうかと思う。国内で比べても、例えば、人間の陸上競技の着順判定などは、ゴール直後にものすごい高精度で発表される。これを機に、新システムへの移行を視野に入れてもいいのではないか。

 今回の件で怒っているファンも、これまでホッカイドウ競馬が、けっして恵まれた立地条件ではないのに、札幌や道外から客を集めようと努力し、馬産地の宝である生産馬の大切な受け皿となろうと頑張ってきたことをわかっているし、評価している。

 振り上げた拳をどう降ろしたらいいのか困りながら、許す準備をしているファンが大多数だと思う。みな、好きなのに、いや、好きだからこそ、裏切られたように感じて怒っていた。だから、何か納得できる材料を得て、これからもホッカイドウ競馬を好きでありつづけたいのだ。

 門別での誤審から1週間も経たない11月6日、10月28日の岩手競馬(盛岡)に出走した競走馬から禁止薬物のボルデノン(筋肉増強剤)が検出されたと発表された。

 7月29日の盛岡開催、9月10日の水沢開催でも同じ薬物が検出され、これが岩手では今年3件目の事態となった。

 リリースに記されているように、厩舎への緊急立入検査や、監視カメラの設置、警備員の増員といった対策を講じてきたのに、また起きてしまった。

 岩手県警の捜査がつづいているが、警察が関わってくるのは悪質性の度合いによるわけではなく、禁止薬物の案件は「競馬法違反の疑いあり」とされるので、自動的に関わることになる。

 それでも同じことが繰り返される。当たり前だが、警察は捜査のプロフェッショナルであって、競馬のプロフェッショナルではない。

 こうした問題の抑止は、競馬のプロフェッショナルでなければ無理だと思う。本来、刑事罰に処するたぐいのことではなく、出走停止や制裁金(課怠慢金)のペナルティを課すなど、競馬サークルのなかで処理すべき性質のものだと思うのだが、これもまた、構造的な問題と言うべきか。

 好きな競馬場でばかり問題が起きる(嫌いな競馬場があるわけではないのだが)。

「再発防止」という言葉が空しく聞こえないよう、努力をつづけてほしい。

このコラムの通知を受け取りますか?

お気に入り

このコラムの通知を受け取りますか?

お気に入り

すでにお気に入りに登録しています。

登録済

作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊ギャロップ、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。趣味は読書と読売巨人軍の応援。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。最新刊はテレビドラマ原作小説『絆〜走れ奇跡の子馬』。

関連サイト:島田明宏Web事務所

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング