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「世界のNanako」はどんな「想像もできなかった近未来」を見せてくれるのか

  • 2019年07月18日(木) 12時00分
 藤田菜七子騎手が、英国アスコット競馬場で行われる騎手招待競走「シャーガーカップ」の女性選抜チームのメンバーに選出された。世界選抜チームのキャプテンをつとめる川田将雅騎手を含む世界のトップジョッキー12人のうちのひとりとして戦うわけだ。

 今年で20回目となるシャーガーカップに出場した日本人騎手は、武豊、蛯名正義、横山典弘、後藤浩輝、福永祐一、内田博幸、岩田康誠、池添謙一、戸崎圭太の9名。藤田騎手は、これらの一流騎手につづいて最年少で名を連ねた。

 新聞には「世界のNanako」という文字も見える。

 デビューした2016年には、アクシデントでレースには出られなかったがイギリスのサンダウン競馬場に遠征。その救済措置としてUAE(アラブ首長国連邦)のアブダビ競馬場の「レディースワールドチャンピオンシップ」第15戦に出場し、海外初騎乗を遂げた。

 2年目の2017年にはマカオのタイパ競馬場で行われた「マカオ国際男女混合ジョッキーズチャレンジ」、スウェーデンのヤードック競馬場の「レディースワールドチャンピオンシップ」に出場。

 そして今年6月、スウェーデンのブローパーク競馬場で開催された「ウィメンジョッキーズワールドカップ」で海外初勝利と2勝目を挙げて総合優勝を果たした。

 時代は異なるが、私が競馬を始めた1980年代後半に「世界の〜」と呼ばれていたのは岡部幸雄騎手(当時)だった。岡部氏は1948年生まれなので、40歳になったかどうか、というころだった。

 1984年に無敗の三冠馬となったシンボリルドルフでGIを7勝し、1987年には当時の年間最多勝記録となる138勝を挙げてリーディングとなるなど、押しも押されもせぬトップジョッキーとして君臨していた。

 そんな岡部氏が海外で初めて騎乗したのは1972年8月のことだった。当時23歳。海外初勝利は1985年7月、36歳のときに西ドイツでマークした。翌月、アメリカで日本人騎手初勝利を挙げる。その年は、日本のシリウスシンボリでキングジョージVI&クイーンエリザベスステークス(8着)とバーデン大賞(4着)にも参戦していた。そして、1998年、タイキシャトルで仏ジャックルマロワ賞を勝ち、念願の海外GI初制覇を遂げた。49歳のときだった。

 1987年にデビューした武豊騎手が海外で初めて騎乗したのは1989年の夏、アメリカのアーリントン国際競馬場だった。その遠征で海外初勝利を挙げている。20歳だった。海外重賞初制覇はデビュー5年目の1991年、エルセニョールで差し切ったニューヨーク州サラトガ競馬場のセネカハンデキャップ。22歳。海外GI初制覇は、1994年の仏ムーランドロンシャン賞だった。このとき25歳。

 藤田騎手は21歳。シャーガーカップに出場するときには22歳になっている。

  国内での実績は、岡部氏や武騎手に遠く及ばないが、海外での騎乗経験と実績は、二十代前半の騎手としては申し分ないどころか、素晴らしいと言うべきだろう。

 時代が違うことは確かだが、時流に乗ることも騎手にとっては大切なことだ。武騎手も「関西馬旋風」と「サンデー旋風」に乗ってブレイクした。

「世界」での実績を先に築き、それから国内での地歩を固めていくスタイルも、今の時代なら「あり」なのかもしれない。

 藤田騎手がデビューするまでは、1996年にデビューした牧原由貴子騎手(当時)以上に人気が出て、GI騎乗を果たしたうえに、シャーガーカップに出場する女性騎手が現れるなど想像することもできなかった。

 1993年の春、スポーツ誌「ナンバー」で武騎手と対談した日本人初のフルタイムF1ドライバーの中嶋悟さんがこう言った。

「騎手もドライバーも、オリンピックの陸上の100メートル競走とかに比べると、まだ可能性があるよね。100年ぐらい経てば陸上でも優勝するのかもしれないけど、今のところは、自分の力の延長線上のものを操るスポーツのほうが張り合えるんじゃないかな」

 あれから100年どころか、26年しか経っていないが、サニブラウン・ハキーム選手などを見ていると、100メートル競走のメダル獲得はそう遠くなさそうだ。

 バスケットやテニスでも、日本人が世界のトップを狙える日が来るなど、以前はなかなか具体的にイメージできなかった。が、八村塁選手や大坂なおみ選手、錦織圭選手らが「想像もできなかった近未来」を今まさに見せてくれている。

 藤田菜七子騎手はどんな「想像もできなかった近未来」見せてくれるのか、楽しみに待ちたい。

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作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊競馬ブック、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。netkeiba.com初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ダービーパラドックス』。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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