「▲ぐらい打ってくれてもいいよ」。レース2日前、宮本調教師から笑顔で言われた。自信ありげに語ったその馬は、3戦2勝で
皐月賞に出走した
クリンチャーのことだ。
デビューは今年1月15日の中京…となるところだったが、当日は降雪のため開催中止となり、翌日に順延。12着(16頭立て)という結果は、少なからずその影響があったと個人的には考える。2戦目は同28日の京都だが、ここで非凡な才能を披露した。新馬戦から中1週というローテで挑んだ一戦で、初勝利を挙げたのだ。14頭立てで最低人気でのVは、単勝2万4480円の払い戻しを演出した。
「未勝利戦を勝った時は間隔が詰まっていたけど、時計も優秀だった。新馬戦の内容から見ても、ビックリしたよ」。担当の長谷川助手は振り返った。
2勝目を目指した次戦は2月26日の
すみれS(阪神)。ハナを切った前走とは変わって、好位で折り合い直線半ばで力強く抜け出す完勝劇だった。「芝の長いところはいいと思っていた」と同助手が言うように、強烈な末脚はなくとも、スタミナ自慢をアピールした。
そして、先週の
皐月賞。枠順発表では外枠16番を引き当て、先行馬の
クリンチャーにとっては痛恨のように思えた。枠番と一気の相手強化ゆえに、記者の印は△にせざるを得なかった。だが、レースでは外枠をものともせずに先行し、3角では3番手。直線もしぶとく粘って勝ち馬から0秒3差の4着。前半の1000メートル通過が59秒0のハイペースという流れのなか、先行馬として掲示板に残った内容は“並の先行馬”とは思えないレースぶりだ。13番人気での大健闘。高く評価できるのではないだろうか。
4着に入ったことで
日本ダービー(5月28日・東京)への優先出走権を手にした。トレーナーは今年に入ってから常々、「ダービーに出たい」という思いを口にしていた。奇しくも
クリンチャーの父は08年の
日本ダービー馬
ディープスカイ。レース前、「▲ぐらい打ってもいいよ」と師に言われた
皐月賞。ダービーでは「本命を打ちたいな」…そう思わせる
皐月賞での“価値ある4着”だった。(デイリースポーツ・向亮祐)
提供:デイリースポーツ