記者はイケメンと金持ちに強烈に嫉妬するタイプの人間だが、あの2日間だけは非常にきよきよしい…いや、すがすがしい気持ちで成功者たちを眺めることができた。
今年で21年目を迎えた日本最大の競走馬セール「セレクトセール2018」(9〜10日)。初めて現場を訪れた記者は、目の前で繰り広げられる超高額のセリの連続に言葉を失った。一見しただけで億万長者と分かる服装、いでたちの紳士と淑女。その周囲にはなぜか決まって美女がいる。池袋や渋谷を歩いていたら怪しまれる年齢差でも、ここでは何の違和感もない。年の差を財力が埋めるのだろうか。
下世話な話になるが、やはり金持ちには余裕がある。セリは時に1000万円単位でつり上がり、数分の間に1億円超の取引が
ポンポンと成立していく。例えば今回の最高落札額は2億9000万円。消費税(2320万円)だけでも庶民が住宅ローンを返済できてしまうほど。しかし、彼らは高額の取引をしながらも非常に冷静で、まるでゲームを楽しんでいるかのようだった。
2日間で計9頭、7億8700万円を使った小笹芳央氏はホウオウの冠名でおなじみの名馬主。「高過ぎてめまいがしそう」と苦笑していたが、「将来が見えない中でデビューまでの夢を買う楽しみがある。その夢の奪い合いはエキサイティングですよね」とその魅力を教えてくれた。
一方、共同名義で6600万円の馬を購入した歌手の前川清は一歩引いた姿勢で臨んでいた。「セレクトのロマンは?」と問うと「僕にはもうロマンはないですよ。失敗を痛いほど知っているからね。それにしても、みんなどこにあんなお金があるんだろう…。こういう若い人といると面白いし、本当に刺激を受けますね」と周囲の熱に圧倒されつつも、楽しげな表情を見せていた。
そんな中、最も印象深かったのが
福永祐一だ。馬主へのあいさつをメインにするジョッキーもいる中、彼は雨の中でレインコートを着込み、メモを片手に牧場を行ったり来たり。豪華な食事や高額のセリには脇目も振らず、一心不乱に馬をチェックしていた。
「ホンマに馬を見るのは楽しいね。そういえば
スワーヴリチャードを初めて見たときは“絶対にいい馬になるな”って思った。ただ数多く見ても正解は分からない。分かったら、みんなこんなに失敗せえへんでしょ。まあ、僕は馬に乗るより、見る方が性に合ってるのかもしれないね(笑い)」
そんな福永に対し、今回初参加した美容メーカー「
メディアハーツ」社長で“青汁王子”の異名を取る三崎優太氏は「いつか僕の馬に福永さんが乗ってほしい」と目を輝かせていた。
今年、悲願のダービージョッキーになった男の変わらぬストイックな姿勢をこの目で見て、いつの日か億万長者のオーナーたちが一目置く名調教師になることを記者は確信した次第だ。
(童顔のオッサン野郎・江川佳孝)
東京スポーツ