史上5頭目の牝馬3冠達成なるか。今年の
秋華賞の焦点はその一点に尽きる。
メジロラモーヌ、
スティルインラブ、
アパパネ、
ジェンティルドンナ…。過去4頭はいずれもTR
ローズSを叩いての偉業達成。対して釘傷によりぶっつけ出走を余儀なくされた1993年2冠馬
ベガは、
エリザベス女王杯3着(当時の牝馬3冠のひとつ)と涙をのんだ。つまりアク
シデントもなくぶっつけで挑む
アーモンドアイの選択は、ある意味で
セオリー無視の出走。この謎を解かない限り、偉業達成の可能性は見えてこないのかもしれない。
「普通なら
トライアルを使って息をつくり、レース感覚を取り戻す必要はあるでしょう。むろん、それが競馬の常識。10の調教より1の実戦という言葉もあるから。特に
アパパネの時は、
トライアルで負けても“本番だけ頑張ればいい”という感覚で常に送り出してきた」
2010年の3冠馬
アパパネを引き合いに
トライアル出走の意義を語るのは、国枝キュウ舎の番頭格・佐藤勝美助手。だが、
アーモンドアイはそれを承知で常識破りの選択を決断した。果たしてその真意とは何なのか?
「馬のコンディションづくりというのは、頂上を目指して山の稜線を歩いているようなものでね。できれば最短で行きたいが、たいがいの馬は途中でそこを外れて回り道して上がっていくものなんだ。だが
アーモンドアイは指標を示せば、その稜線を真っすぐ歩いていける馬。それは進む稜線が他と比べて断然に太く安定しているため。だから
シンザン記念も
桜花賞も間隔が空くことに不安はなかった」
登山に例える
アーモンドアイの調整法。それを可能にするのは持って生まれた心身の強靱さだと同助手は力説する。
「強い牝馬は緊張しても我慢できる強いハートを持っている。
アパパネもそうだったが、
アーモンドアイのそれは別格。加えてトラブルがないフィジカルの強さがある。過去いずれのレースも、あれだけ走ったら普通どこかおかしくなるというパフォーマンスを見せつつ、ケロッとしているんだからね。これだけ心技体の三拍子が揃った馬は見たことがない。むしろ自分たちが勉強させてもらって連れていってもらっている感覚なんだよ」
クリストフ・ルメールが「彼女はプロフェッショナル」という言葉を口にするのも、おそらく同様の意味なのだろう。次はさらに高い峰=JCへの挑戦が決まっている同馬だが…。三度目の登頂で失敗する可能性は限りなく低いと当方は見ている。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)
東京スポーツ