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武豊騎手がキタサンブラックに抱いた“絶対的な信頼”

  • 2018年10月23日(火) 18時00分
 本日23日に双葉社より武豊騎手(著)による新刊『名馬たちに教わったこと 〜勝負師の極意III〜』が全国発売されました。

 先月にはJRA通算4000勝を達成した武豊騎手。4000勝には4000の物語があります。そのひとつひとつを思い出しながら、今回は武豊騎手がこれまで出逢った33頭とのエピソードを綴っていきました。その中から昨年引退したキタサンブラックとの思い出を抜粋でお届けします。
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 3着に敗れた「宝塚記念」の後、一旦休養に入ったキタサンブラックが再び始動したのは、2016年10月10日に行われたGII「京都大賞典」です。このとき僕は、キタサンブラックへの確かな手応えを感じていました。

 絶対的な信頼――。

 そう言葉を置き換えてもいいほど、キタサンブラックは、それまで出逢ってきた名馬たちに負けない力を秘めていました。

「北島オーナー、芸道55周年、そして80歳のお誕生日おめでとうございます。北島オーナーに対して一番のプレゼントは競馬で勝つことだと思っております。私に関しましては、10月10日月曜日にキタサンブラック号で、京都競馬場のレースに出ますので、そこで誕生日プレゼントをさせていただきます」

 北島三郎さんの芸道55周年をお祝いするパーティーで、こうご挨拶させていただいたのは、5日のことです。

 スポーツ選手に限らず、人には2種類のタイプがあります。

 思ったことを口にするタイプと、思いを腹の底にとどめておくタイプ。前者は口にすることで自分自身にいい意味でのプレッシャーをかけていく人で、後者は平常心……心のコントロールを大事にするタイプの人です。

――武豊騎手はどっちのタイプなんですか?

 僕は後者。どんなに自信があっても、「勝ちたいですね」「ここはチャンスだと思います」「なんとかしたいですね」という言い方はしても、「勝ちます!」という言葉は口にしません。というか、言えません。

 なぜか? 競馬は何が起こるかわからないというのを、イヤというほど経験してきているからです。

「誕生日プレゼントをさせていただきます」という言葉は、いい馬に乗せていただいている感謝の気持ちと、頚椎症性脊髄症で入院されていたオーナーへの僕なりの激励。春の天皇賞馬として、ここでは負けられないという意地。そしてもうひとつ、キタサンブラックへの信頼が言わせた言葉です。

 約束通り、「京都大賞典」を制したキタサンブラックが、次に挑んだのが、GI「ジャパンカップ」でした。ここで、強い競馬ができたら、キタサンブラックの力は紛れもない本物だということを証明できる――。

 勝つことも大事だけど、それ以上に、内容が問われたレースだっただけに、それが実現できたときの喜びも格別でした。

 勝ちは勝ち。そこには上下も、いい、悪いもありません。ただ、勝負ごとの醍醐味という点においては、強い馬が、強い勝ち方をしたときが一番です。キタサンブラックの勝ち方は、まさに、その言葉通りの優勝でした。

「強いキタサンブラックを見せることができて、本当に幸せです」

 表彰式でも胸を張って答えることができました。馬体、気配、返し馬……この日のキタサンブラックは、すべてにおいてパーフェクトだったと思います。

 レースを振り返ってみましょう。

 抽選で決まったのは「天皇賞・春」で勝ったときと同じ、1枠1番。

 スムーズにゲートを出られたら、こうしよう。出遅れたときは、こう。強引にハナを主張する馬がいたときは無理をしないで……いろんな想定をしていましたが、キタサンブラックが抜群のスタートを決めてくれたので、迷わず先頭へ。気負うことなくスムーズに1コーナーに入れたことが、その後の走りにつながりました。

 1000メートルの通過タイムが61秒7。

――この日の馬場状態を考えると、61秒台が理想。

 そう思っていただけに、ここまでは、すべて思い描いていた展開です。

 そして勝負は、4コーナーから最後の直線へ。

 ここでも後続に迫られるのは想定内。内から3、4頭分のベストコースを回って、本当の勝負は残り300メートルあたりから。ギアチェンジをするのはそこからでいいと考えていたので、ここもパーフェクトです。

 ちょっとだけイメージが違ったのは、そこからのキタサンブラックの走りでした。

 これまでは、先頭に立つと気を抜くところがあり、勝っても僅差がほとんど。それが今回は、最後まで力強く伸び続けて、後続を突き放すという強い競馬を見せてくれたのです。

 悪いほうに変わるのは嫌ですが、こうしたいい方向への変わり方は、いつだって大歓迎です。

 ウイニングランを終え、検量室に戻ると、そこでは、9月に頚椎の手術をされ、まだリハビリ中だという北島三郎オーナーが、バンザイで僕と愛馬を出迎えてくれました。

 応援してくださったファンの前で、『まつり』を歌われたときには満面の笑みでしたが、インタビューで、「今日は泣きました。涙でボロボロでした」と話をされていたように、その頬には、涙の跡がくっきりと残っていました。
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出版社:双葉社
発売日:2018/10/23(全国発売)
定価:1,100円+税

ご購入:AMAZON(別サイトへ移動します)

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