時にふと思う。馬券の当たり外れになぜこうも一喜一憂し続けているのだろうと。ただ、思い起こせば幼いころから不安定なものは好きだった。サーカスなら綱渡り、大道芸なら自転車や椅子を使ったアクロバットに魅了され、自分自身も一輪車に挑戦したり、塀の上を竹馬で歩いたりもした。
スリルこそ原動力――。まあ言ってみれば、
バランスを崩せば壊滅しかねないギャンブルも似たようなものか。危なっかしい大道芸を演じたい原点的欲求が、いまだ心の奥底にあるのかもしれない。
危うさに魅了されるといえば、土曜中山メイン・
師走S(オープン、ダ1800メートル)の
フェニックスマークも確かにそんな一頭だ。4歳暮れにしてまだ8戦。その浅いキャリアが危なっかしい同馬の本質を見事に突いている。
「オープン入りするまでの過程で、勝てば勝つほど(横山)ノリさんには怒られてきました。こんな仕上げじゃダメだって(笑い)。ただ、慢性の球節炎でやりたくてもやれないジ
レンマがあったんです。
もともと左前の球節の骨の形が悪くてダメージを受けやすく、常に脚元と相談しながらの調整。その
バランスが難しいんですよ」
こう明かすのは攻め専の名倉淳一助手。デビューから8戦で5勝、2着2回、3着1回。オール馬券圏内の堅実さとは対照的に、歩んだ道程は常に綱渡りだったという。5か月ぶりとなる今回も、なるほど臨戦過程は不安定さに満ちている。
「当初は
白山大賞典を目標に9月上旬に帰キュウしたけど、体が硬くてとても動けなかった。そこで様子を見つつ治療し、予定を定めず一から立ち上げたんです。この外キュウ時代に実に3か月のキュウ舎調整ですからね。まだそれだけ危ういんですよ」
いわば未熟なアクロバット芸人。今はギリギリの
バランスを保つのが精一杯なのだろう。それでも名倉助手は言う。
「
マーキュリーC(3着)の時は夏負け気味で食いも渋かったが、涼しくなるにつれ体調も上がり、今は毛ヅヤも
ピカピカです。森林馬道など普段行かない場所へ連れて行くなど、今回はメンタルのトレーニングも積めましたからね。
まだ右トモもかったるくて、右手前では走りが小さくなる。それだけに直線を左手前で走れる中山が現状では合うと思うんです」
過去4戦4勝の中山なら、未熟ながらも細い綱を渡り切ってしまうのか。当方も馬券を手に一喜一憂する算段だ。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)