今年、70回を迎える
阪神ジュベナイルフィリーズ。第50回の阪神3歳牝馬Sでは史上4頭目となる無敗の女王が誕生した。今回の「GI列伝・阪神JF」は、1998年の
スティンガーを振り返る。
■連闘でのGI制覇はデビュー29日目!
スティンガーのデビュー戦は11月の東京芝1800m、単勝オッズ1.9倍の1番人気に支持された。4番手で折り合うと、ゴール前で3番人気の牡馬
ハートブレイクヒルをきっちり差し切った。勝利後、鞍上の岡部幸雄騎手は「なかなかいいセンスをしている。教えるべきことはたくさんあるが、みがけば光る素質があると思う」と好評価を与えた。そしてこのとき、管理する
藤沢和雄調教師はデビュー3戦でのGI挑戦という計画を立てる。オーナーの吉田照哉氏に、次の
赤松賞をダメージの少ない競馬で勝てたら、阪神3歳牝馬Sを使わせてほしいと伝え、オーナーもこれを了承したという。
中2週の
赤松賞も、単勝オッズ1.5倍の断然人気を背負っての出走となった。このときも道中は4番手を楽に追走し、直線で鞍上が軽く気合いを入れただけで後続を突き放す2馬身半差の完勝だった。また、ゴール後の岡部騎手が、それほどきつい競馬ではなかったと話したことで、藤沢和師の計画は実行に移される。
第50回阪神3歳牝馬Sへ駒を進めた
スティンガーに対し、ファンの評価は3番手に留まった。1番人気(単勝オッズ4.1倍)は前走
ファンタジーS2着の
ゴッドインチーフ、2番人気(同5.2倍)は小倉3歳Sを制した
コウエイロマン。牝馬が連闘でGIを勝てるほど甘くないし、関西への輸送も初めてとなれば、ファンもそして関係者もが不安視したというのは仕方のないことだろう。ところがそんな周囲の不安を、
スティンガーは鮮やかな末脚で一蹴してみせたのである。
レースは、
エイシンルーデンスと
コウエイロマンのハナ争いで幕を開けた。2頭が引っ張る流れは、前半1000mが58.6秒のハイペースとなり、4コーナー手前では8馬身ほどの差を広げた。
スティンガーは後方から進み、勝負どころで外を回りながら他馬とともに進出を開始。前との差はなくなり、ほぼ一団となって直線を迎える。そこから素晴らしい切れを見せたのが
スティンガーだった。馬場の真ん中を抜け出すと、内で粘る
エイシンルーデンスを並ぶ間もなく交わして先頭へ。そして豪快な走りで他馬を圧倒し、2着の
エイシンレマーズに2馬身差をつけ、無傷の3連勝で女王の座を掴み取った。
初コンビを組んだ
横山典弘騎手は「疲れは感じさせなかった。レースでは動きたいと思ったときにすぐに反応してくれて、しっかり伸びてくれた。こんなに気持ちがいい2歳牝馬は他にいない」と最上級の言葉で称賛した。
連闘でのGI制覇は、
グレード制導入後では1989年
安田記念の
バンブーメモリーのみ(当時)。2頭のみとなる記録を、デビューからわずか29日目の2歳牝馬が達成したみせたのである。
翌年、ぶっつけの
桜花賞は12着、
オークスも4着で藤沢和師に初のクラシック勝利を届けることはできなかった。また、GIタイトルは阪神3歳牝馬Sの1勝で現役を終えた。
それでも、牡馬を相手に京王杯ス
プリングCを連覇するなど重賞は5勝をあげ、
グレード制導入後初となる3歳牝馬としての
天皇賞・秋への挑戦もあった。
スティンガーの挑戦する姿は多くのファンに勇気を与えたはずだ。