有馬記念に出走する
ミッキーロケットの鞍上にオイシン・マーフィーの名前が浮上したとき、「めっちゃ、いいじゃないですか」と思わず口にしてしまった。
もちろん、主戦・和田での有馬参戦こそが最高の形。が、当時は落馬負傷からの戦線復帰がまだ不透明な時期。「若手のホープ」マーフィーを確保するタイミングがあの瞬間しかなかったのであれば、その判断をした陣営を責めることはできないと個人的には思う。
「日本のトップ騎手に頼んで結果が出れば、その後も継続して乗ってもらうしかなくなる。でも短期免許で来日する外国人騎手なら1回のみだから」と音無調教師。二十数年の長い付き合いだ。その言葉にうそがないのは表情を見ればわかる。
“元サヤ”に戻る日を待ちながら「頼れる代打」マーフィーの渾身騎乗を楽しみに見る予定…ではあるのだが、彼が
ミッキーロケットの能力をすべて引き出せるかとなると、それはまた別の話だ。
その実力は折り紙付きなうえに、勉強熱心とも聞く。「めっちゃいい」という当時の記者の言葉は紛れもなく本心だ。しかし、その一方で中山芝内回り2500メートルは特殊なコース形態。有馬当日は世界でも珍しいくらいの独特な雰囲気にもなる。果たして日本初参戦の外国人騎手がテン乗りで結果を出せるのか。
そんな気持ちが芽生えたのは、昨年の
有馬記念で3着に敗れた
シュヴァルグランの大江助手が「ボウマンが
有馬記念というレースを経験してくれているのは大きい」としみじみ語っていたためでもある。
「昨年の3着は不利が痛かった。でも
スワーヴリチャードと接触する前から動いてくれていたら…。そう考えることもあるんです。
シュヴァルグランは一瞬の加速力に欠ける面がある馬で、他の馬よりスパートのタイミングを早くしなくちゃいけない。中山の2500メートルならなおさらですよね。でも、昨年はそれができなかった。様々な要因があって、あの形になってしまったことは理解しているけど、有馬は特殊で難しいレース。JCを勝たせてくれたボウマンでも簡単ではないんだなと思いましたね」
シュヴァルグラン=ボウマンのコンビは今年の
天皇賞・春でも実現し、クビ差2着に敗れた。しかし、差し届かなかった有馬とこのレースは敗戦の意味合いが違う。
「1頭になってしまったところを(
レインボーラインに)差されただけで、ボウマンは
シュヴァルグランの特徴を最大限に生かそうとしてくれた。納得しています」と大江助手。
豊富なスタミナを武器にして前を追いかけ、競り合う形になって強い、
シュヴァルグランのベストレースが昨年のJCなら、
キタサンブラックの役どころを演じるのは
キセキということになるだろう。
「枠の並びも関係してくるけど、
キセキの見える位置からロングスパートして、
レイデオロが来る前に、馬体を併せる形へ持っていきたい。それができれば勝てると思うんだ。この馬のことをボウマンは理解してくれている。今年は昨年のようにはなりませんよ」(大江助手)
通年免許のルメール、
M.デムーロを含め、今年も6人の外国人騎手が
有馬記念に参戦。しかし、昨年と同じコンビで挑むのは
シュヴァルグラン=ボウマンのみだ。昨年の敗戦を糧にできる人馬がどのようなパフォーマンスを見せるのか?これこそが今年の
有馬記念を左右する重要ポイントだと考えている。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)
東京スポーツ