第36回
フェブラリーステークスのパドックに現れた1番人気の
インティは、ときおりツル首で小走りになるなど、気合を表に出していた。
「久しぶりの前日輸送だったので、パドックや返し馬ではテンションが高かったですね」と管理する
野中賢二調教師。
騎乗した
武豊もそう感じていた。
「元気がよすぎて、返し馬では止まらなかった。それでも、常歩になって、輪乗りをしているうちに落ち着いてくれたので、このテンションなら大丈夫だと思いました」
パドックで、野中師と武は、前半の3ハロンの入り方について話した。武は言う。
「34秒台だとちょっと速い。35秒台には抑えたいな、と。1600mはこの馬にはむしろいいと思っていた。ただ、今度は短距離馬が出てくるので、マイペースで走ってきたこれまでとは違う。そこは気をつけました」
逆に言うと、気をつけていたのはそこだけだった。芝スタートに関しては、「すごく軽い走りをするので心配していなかった」と野中師は言う。
ゲートが開いた。芝からダートに入って少し行ったところで、
インティがハナに立った。
「ポジションは、ひとつ内の
サクセスエナジーの出方を見て決めようと思っていた。ほぼ2番手で行くことを想定していたのですが、相手がそれほど行く構えを見せなかったので、切り換えて、先手を取りに行きました」と武。
前半3ハロンは35秒8。武がイメージしていたとおり、いや、それ以上におあつらえ向きの流れになった。
3、4コーナーも先頭をキープし、直線に入ると早めにスパートをかけ、後ろを引き離しにかかった。
「道中、馬はエキサイトせず、思い通りのラップを刻むことができた。なので、直線に向いたら、先に自分から
ゴーサインを出しました。素晴らしい伸びで、乗っていて気持ちよかったです。おそらく後ろは離れただろうな、と。最後は一杯になって、強い馬に詰め寄られるだろうけど、セーフティリードだと思いました」
2着の
ゴールドドリームに首差まで迫られたが、着差以上の余裕をもって、先頭でゴールを駆け抜けた。
直線では手前を替えず、コーナーを回ったときの左手前のまま走り切った。
「それでも最後まで粘ったのだから、あらためてすごい馬だと思いました」と野中師。武はこう話す。
「3コーナーまでは右手前だったんです。スタートからずっと左手前だったわけではないので、無理には替えさせなかった。そういう馬なんだと思います」
一昨年6月の未勝利戦から7連勝でGIを勝ち取った。短期間でこれほど強くなった馬は、数多くの名馬に乗ってきた武も、ちょっと記憶にないという。
「ぼくが初めて乗ったのは去年の夏の中京なのですが、いい馬だとは思っても、そのときは
フェブラリーステークスを勝つとは思いませんでした。まだ強くなりそうですね。楽しみです」
(文:島田明宏)