昨年末、友道キュウ舎の大仲(休憩室)で、
ヴィブロスが出走した香港国際競走の話をしていたら、大江助手が「本音を言えば、
香港マイルよりも、
香港カップのほうがチャンスは大きかったように思うんですけどね」とポツリ。その言葉の真意は痛いほど分かった。
ヴィブロスの
香港マイル出走は距離適性を考慮されてのものだが(マイルでの実績はなかったが、全姉が
ヴィルシーナという血統背景から“本質はマイラー”の声がキュウ舎内では、ずっとあった)そこに相手関係が含まれていなかったのは失敗だったように記者も思う。
ビューティージェネレーションという世界屈指の名馬と対決しなくてはならなかったからだ。
「
ジャパンC後にライアン・ムーアと話をする機会があったんですけど、彼もこう言ってました。“なぜ、
ヴィブロスは
香港マイルに行くんだ? チャンスがあるのは
香港カップのほうだろ”って。彼くらいの騎手になれば、世界中の競馬に精通しているのが当たり前。どこのレースの、どの馬が強いか、ということが十分に分かっている。
もちろん、
ヴィブロスが2000メートルの距離をこなせることも知っているんですよ。その上で
ビューティージェネレーションと走るのは賢明な判断ではない。そう言いたかったんでしょうね。なにせ香港はあの馬のホームなんですから」
結果はご存じの通り。
ヴィブロスは懸命に頑張ってくれたものの、
ビューティージェネレーションは世界レベルのパフォーマンスで余裕の勝利を決めた。何度走ってもノーチャンスだったろう。仮に
香港カップを選択していたら――。その結果は推測でしかないが、海外遠征の得意な彼女のこと。
ワンチャンスあったかもしれない。
ちょっと前振りが長くなったが、話題を今週末に移そう。
ヴィブロスは今回も世界レベルの強敵と同じレース(
ドバイターフ)を走る。説明は不要だろう。強敵とは我が日本が誇るスーパーホース、
アーモンドアイのことだ。もちろん、この馬に対する敬意はトレセンにいる誰もが持っており、普通の状態で普通に走れば勝てる――と多くの人が思っているはず。記者もそうだ。
しかし、普通の状態で普通に走れるのか? それは分からない。なにせ彼女にとって今回は初の海外遠征。アウェーで走る
アーモンドアイの姿は誰も見たことがない。だからこそ、他の馬にも
ワンチャンスありと言えるのだ。
「
アーモンドアイを負かせるかもしれない…とは日本ではとても言えないけど、ドバイなら話は別。あの馬は海外遠征が初めてで、こっちは遠征が得意と分かっているんですから」とは
ヴィブロスを担当する安田助手。
「体のない牝馬のドバイ遠征は、かわいそう」と言っていた彼も、
ヴィブロスに帯同した過去の経験を経て、彼女の見方に変化が生まれた。
ヴィブロスは海外でもホームのように振る舞える珍しいタイプの馬なのだ。
「日本ではどうしても気持ちが入り過ぎてしまうけど、海外に行くと落ち着くんですよね。馬体が減ることもないし、逆に遠征を契機にして馬体が充実していったんですから、本当に不思議なものです。
そりゃあ、普通に走られたら
アーモンドアイが強いのは分かってますし、
ヴィブロスと一緒に海外へ行くと、どういうわけか気配が良くなる
ディアドラも強力なラ
イバル。でも、今回は
ヴィブロスにとって正真正銘のラストラン。頑張って走ってほしい」と安田助手は期待を寄せている。それは記者も同様だ。
2017年
ドバイターフ1着、18年2着、そして
香港マイル2着…海外では馬券対象から外れたことのない
ヴィブロスの馬券を全力で買い、土曜深夜は寝不足覚悟で、彼女の最後の走りを目に焼き付けるつもりだ。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)
東京スポーツ