雨が降り続いてコースのほとんど全面に水が浮いた馬場。それがレースにどう影響するのか、予想に際しての最大の関心事となった。この日の開催が始まったころには
藤田菜七子騎手で注目の
コパノキッキングが断然人気だったが、
ヒロシゲゴールドが徐々に人気を集め、パドックの頃には1、2番人気が何度か入れ替わった。
有力馬に直線末脚勝負という馬が多いなかで、
ヒロシゲゴールドは重賞初挑戦にもかかわらず最終的に単勝1番人気になったのは、逃げた馬が止まらないこの日の馬場状態ゆえだろう。ただし、連勝系のオッズでは
コパノキッキングが人気の中心になっていた。
過酷な馬場状態でも、上位を争った馬たちは、それぞれが能力を存分に発揮した。
そのレースぶりにまず驚かされたのが、勝った
キタサンミカヅキ。直線勝負のこの馬が、なんと逃げた
ヒロシゲゴールドの2番手につけた。
森泰斗騎手は「馬が行く気になっていたので、あえて下げることもないと思って…」と話していたが、馬場を考えて先行することも選択肢にあったのではないだろうか。その伏線は、昨年制した
東京盃にあった。
互角のスタートから好位の5、6番手を追走。4コーナーでも外に持ち出さず、内から伸びて差し切った。そのとき逃げたのは
マテラスカイ。そして今回、
ヒロシゲゴールドが逃げるといっても、さすがに
マテラスカイほどのスピードではない。それを考えれば、スタートさえ決めれば
キタサンミカヅキの好位2、3番手はそれほど不思議なことでもない。
実績のわりに57kgという恵まれた斤量もあったのだろう。直線を向いてもまだ追い出しを待っている抜群の手応え。さすがに9歳になって成長ということはないだろうが、好位でレースができるようになったのは進化といえる。馬が進化したというよりも、昨年夏から手綱をとっている森騎手が進化させたのではないか。
キタサンミカヅキは京都の
JBCスプリントで3着。勝った
グレイスフルリープから0秒4差は、見ているものからすれば好走ともいえた。しかし森騎手は「中央のダートは進み方が違う」と、かなり悔しいという表情を見せていた。重賞6勝のうち5勝が大井1200m戦ということでは、やはりそういうことなのだろう。それが水の浮く極悪の馬場でも変わらなかったということでは、恐るべき9歳馬としか言いようがない。
そしてほとんど差しの決まらない馬場にもかかわらず、大外から前の2頭をとらえようかという勢いで伸びてきたのが
コパノキッキング。
スタートでは大きく出遅れた。
藤田菜七子騎手によると「初めてのナイターもあったし、水の浮く馬場で馬が走る音を気にして少しテンションが高かった」とのこと。とはいえ近走のレースぶりから、出遅れは個性ともいえる。
それにしても思い切りのいい藤田騎手のレースぶりはどうだ。スタート直後は最後方も、すぐに勢いをつけていって、3コーナーでは早くも中団の7番手。出遅れた馬がそれを挽回しようとして勢いをつけていけば、直線でばったりというのはよくあるパターン。そうなれば鞍上に対する批判は逃れられない。しかしそうはならなかった。4コーナーでも手応え十分。内に入れるか迷った場面もあったようだが、すぐ前の
テーオーヘリオスの行きっぷりがイマイチと見ると、思い切って外に持ち出した。
直線を向いて、もはや前を遮る馬はいない。あとはどこまで伸びるか。もちろん後半3Fはメンバー中最速。レースの上りが36秒9、勝った
キタサンミカヅキが36秒8のところ、
コパノキッキングは36秒4。負けてなお強し。やっぱりタダモノではないことをあらためて印象づけた。加えて、この馬場状態でも馬の持ち味を発揮させた藤田騎手の騎乗は褒められていい。
ヒロシゲゴールドの逃げは、おそらく想定通り。日本のダート(砂)は一般的に湿るとタイムが速くなるが、水が浮くほどになると逆に時計は遅くなる。それを前半34秒7というペースで逃げ、この馬自身の上り37秒1はよく粘った。繰り返しになるが、むしろそのペースを2番手で追走して直線まで手応え抜群だった
キタサンミカヅキ、直線追い込んで
ヒロシゲゴールドをクビ差とらえた
コパノキッキングのレースぶりを褒めるべきだろう。
好位の内を追走した
ショコラブランはよく粘って4着。中央在籍時、不良馬場は3戦して1勝、2着2回。大井に移籍しての2戦(前走は
フジノウェーブ記念)はともに不良馬場で4着、4着だが、勝ち馬とは0秒6、0秒2という差。ダートの不良馬場はよく走る。
3番人気だった
ホウショウナウは、4コーナー手前では
コパノキッキングとほとんど同じような位置にいたものの、直線では前と脚色が一緒になっての7着。この馬も直線のキレが持ち味だが、完全に馬場に殺された。その
ホウショウナウとの比較でも、直線で脚を使った
コパノキッキングのスゴさがわかる。