負けたことのない馬の負けパターンをイメージすること。それは簡単なようで意外と難しい。昨年暮れの
ホープフルSを走る前のことだ。
「仮に
サートゥルナーリアが負けるなら、どんな展開になったとき?」
そんな失礼な質問をぶつけてみたが、それに対する辻野助手の答えは「スローペースで周囲を囲まれ、馬群の中に閉じ込められる形になったときですかねえ」
結果はご存じの通り。彼の危惧に近い状況になったにもかかわらず、
サートゥルナーリアは馬混みから楽に抜け出してきた。辻野助手にイメージしてもらった前記のシチュエーションは、誰もが考える
サートゥルナーリアの負けパターンだったはずだが、それをあっさりと覆してしまったわけだ。だが、これさえも予想されたことだった。
実は前記のコメントをした後に「それでも負けるシーンは想像できませんけど」と辻野助手は付け加えた。正直、
サートゥルナーリアが負けるシーンは記者も想像できない。それは今回も同様だ。
逆に“敗戦”を経験することで、その馬に合わない展開や状況などが明確になることもある。先週の
桜花賞を勝った
グランアレグリアにとっては
朝日杯FS3着がそうだったろうし、その
グランアレグリアを破って2歳王者になった
アドマイヤマーズにとっては前走の
共同通信杯が、それに当たる。初めての敗戦が自身のストロングポイントをより生かす
スタイルに傾倒する“きっかけ”になるわけだ。
「長く脚を使うタイプなのは僕らも分かってはいました。もちろん、マイルに特化した馬に育てるのであれば、前走でも早めにスパートする競馬をしていたでしょう。でも東京への長距離輸送を経験させ、さらに200メートルの距離延長になる
皐月賞を意識したとき、相手の出方を待って動く競馬もしておきたかった。この馬の
スタイルがハッキリと分かったことは大きいと思いますよ」と大江助手は初の黒星になった
共同通信杯を振り返る。
勝った
ダノンキングリーの瞬発力は、
アドマイヤマーズのそれをはるかに上回っていた。しかし、後塵を拝してから差が広がったわけではない。後伸びする形ではあったが、しっかりと食らいつき、後続は離した。あの一戦を“試走”と見るなら、成果は十分にあったと考えるべきだろう。
問題は試走で得た教訓を今回に生かせるか。
アドマイヤマーズが最初の目標にするのは、おそらく
毎日杯を逃げ切った
ランスオブプラーナ。しかし、この馬のタイミングに合わせた追い出しでは、後ろで構える馬の瞬発力に屈してしまう。
「折り合いを欠くような馬ではありませんが、それは自分のペースで走っていれば…の話。ある程度のペースで流していって、積極的に動いていくことになると思いますよ。抜け出すと物見をする馬ですけど、後ろがつついてくれれば、もう一度走る気を出してくれる。強い馬が早めに来てくれたほうが頑張れるタイプですから」(大江助手)
イメージ化すれば、ミドルペース以上で運び、直線入り口で一気に抜け出す→そこに
サートゥルナーリアが襲いかかってくる→並ばれるところまではいくが、前には出させない――。こんなところだろうか。
こういったイメージがハッキリと浮かぶのも、
共同通信杯の敗戦があってこそ。負けたことで開き直れた2歳王者は、やはり無視できない。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)
東京スポーツ