この馬が前走のように出遅れるか、それとも速いスタートを切るかで展開が大きく変わる。そう言われていた
キセキが、ポンとゲートを出た。観客が入っていたら大きく沸いていただろう。
テン乗りの
武豊を背にした
キセキは、1周目の3、4コーナーを3番手で回った。武がギリギリのところで抑えていたのだが、正面スタンド前で首を上げて行きたがったところで、無理に抑えるのではなく、馬の行く気に任せてハナに立った。
1、2コーナーを回りながら後続との差をひろげ、向正面では2番手を3馬身ほど離した一人旅になった。
クリストフ・ルメールが乗る1番人気の
フィエールマンは中団の少し後ろ。馬はやや行きたがっているように見えたが、先頭から10馬身以上離れたそこからルメールは動こうとしなかった。
向正面半ばを過ぎ、外から
ミッキースワローがかわして行っても、ともに上がって行こうとはしない。3、4コーナーで
ミッキースワローの後ろからじわっと押し上げて行くにとどめ、ラスト600m地点でも、まだ手綱を抑えている。
4コーナーの出口付近でようやくルメールの手が動き、直線入口で
ミッキースワローの外に進路を取った。
先頭は、これもいい手応えで直線に入った
キセキ。武の左ステッキを受け、末脚を伸ばす。令和初の春の盾も、平成初の春の盾をテン乗りの
イナリワンで制した武の手に渡るのか――と思われたが、そこまでだった。
ラスト200m付近で、
スティッフェリオが外から
キセキをかわし、先頭に躍り出た。
さらに外から
フィエールマンが伸びてくる。が、
スティッフェリオも簡単には抜かせない。
フィエールマンが1完歩ごとに差を詰め、内の
スティッフェリオに並びかけたところがゴールだった。
ゴールする最後の完歩で、首をぐっと下げて前に出した
フィエールマンが鼻差の勝利をおさめ、史上5頭目の春の盾連覇をなし遂げた。
「ずっといいペースだったので、楽勝だと思っていた」と後ろに控えたルメールの自信に満ちた騎乗で、
フィエールマンが競馬史に新たな足跡を刻みつけた。
(文:島田明宏)