「とにかく、きれいな馬だったよ。どこにいても目立っていたからね」
トーホウジャッカルのことを聞くと、先輩方は口を揃えてこう言います。写真を見ると、確かにものすごく美しい。レースでは青いメンコで顔が見えづらかったようですが、かなりのイケメンです。私が担当する谷厩舎に初めて
JRAのGIタイトル(2014年
菊花賞)をもたらした馬。それも、いまだ破られぬレコード勝ち(3分01秒0)をした馬。実物を見たことはないけど、ずっと気になっていたんです。
「
ジャッカルがデビューしたのは3歳の5月末。かなり遅いやろ。入厩前に体調を崩して、生死の境をさまよったんやわ」と谷調教師。一時期から体重が50キロ近くも減り、競走馬にはなれないかもしれないと思ったそうです。そんな苦節を乗り越え、やっとこぎつけたデビュー戦。
結果は10着でしたが、「レース後、すぐに(酒井)学が“この馬、絶対に走ります。もう1回乗させてください”って言ってきてな。結局、2戦目は学が乗れなくて、幸でダートを使ったんやけど(9着と)サッパリで…。後々、幸と
ジャッカルの話をしたら“僕乗ったことありましたっけ!?”って驚いてたくらい、ダートでは印象がなかったみたいやわ」と谷調教師は懐かしそうに振り返ります(ちなみに3戦目から酒井騎手に戻り、未勝利→500万下を連勝しました)。
今年は新種牡馬として
モーリス&
ドゥラメンテが特に注目されておりますが、
トーホウジャッカル産駒も今年が初年度。血統登録頭数はわずか9頭と、現役時にGIを勝った新種牡馬の中では最も母数が少ないのですが、そのうちの一頭がお父さんと同じ谷厩舎にやって来てくれました。
トーホウスザク。父
トーホウジャッカルと同じ尾花栗毛の牡馬(
母トーホウドルチェ)です。
「似てるかなあ? やっぱり
ジャッカルのほうがきれいやったけどな」と口にする谷調教師に対して、「いやいや、似てますよ。乗り味とか、ちょっと変わり者な性格とか…そっくりです」とは攻め専の廣井助手。距離適性は未知数も、やる気を出したときの反応の速さも似ているそう。
追い切りでは物見をしながら…というよりは、“しまくり”ながら走ったりもするそうですが、いざ追い出すとガツンとハミをかんで、前の馬を抜かそうとする勝負根性を出すそうで…。しかも、このとき前にいた馬は、先週の阪神新馬戦(芝内1200メートル)で一般馬相手に叩き合いを制した九州産馬
ヨカヨカなんです。
トーホウジャッカルの強みは瞬発力と勝負根性だったとお聞きしていますし、やはり似ているのだと思います。
「
ジャッカルは底知れない能力のある馬だったけど、いかんせん体が弱かった。使いたいレースも使えなかったし、いろいろやり残したことがある。
スザクは幸い脚元も丈夫そうだし、
ジャッカルでかなえられなかった夢も一緒に追っていけたら」
谷調教師の思いを乗せて、
トーホウスザクは日曜(21日)阪神芝外1600メートルでデビュー予定。父譲りの勝負根性で、貴重な
トーホウジャッカル初年度産駒の星になってくれることを期待しています。
(赤城真理子)
東京スポーツ