競走馬にとってクラシックは一生に一度しか挑戦できないレース。だからこそ、勝利の価値も高いのだが、一生に一度しか走れないレースであるがゆえに「生まれた年が悪かった」なんて状況にも遭遇してしまう。
2012年の牝馬3冠を席巻したのは
ジェンティルドンナ。のちに
ジャパンCを連覇してしまう歴史的名牝の陰に隠れ、3冠戦すべてで2着という残念過ぎる記録を作ってしまった
ヴィルシーナ(のちに
ヴィクトリアM連覇)は、まさに前述のフレーズがふさわしい。仮に生まれた年が違っていたら、彼女自身が3冠牝馬になっていた可能性まであった?
いや、その後に登場した弟の
シュヴァルグラン、妹の
ヴィブロスの成長曲線を振り返ったとき、この血統は明らかな晩成タイプ。それは厩舎サイドも認めていることだ。
「
ヴィルシーナは3歳春から走ってくれましたが、本当に実が入ってきたのは古馬になってから。3歳秋にグンと良くなった
ヴィブロスは翌年の
ドバイターフを勝つほどまでに成長してくれました。当時は“こんなに小さな馬をドバイに連れていくなんて、少しかわいそうな気もするな”なんて思ってもいたんですけどね。
シュヴァルグランもいい馬ではあったんですが、それでも当初は“重賞に出られるかどうかのレベルだろう”と。
ジャパンCを勝つまでの馬になるとは思いもしませんでした」(安田助手)
当初のイメージを超える成長を見せたからこそ、GIタイトルを獲得できたわけで、それは珍しく3歳春から活躍した
ヴィルシーナに関しても基本的には同じ。仮に生まれた年が違っていたとしても、歯がゆい結果の連続で3歳シーズンを終えていた…と考えるのが正解かもしれない。
新潟記念(6日=新潟芝外2000メートル)に出走する
ブラヴァスは、その
ヴィルシーナの初子にあたる。キャリア11戦で[4・3・1・3]。重賞に挑んだ近2走の内容も悪くはないのだが、実はこの馬に対する超
ポジティブなコメントを陣営から聞いたことがない。なぜか? 母の
ヴィルシーナだけでなく、
シュヴァルグランや
ヴィブロスと比較しても成長のスピードがスローだからだ。
4歳夏を迎えた現在でも「徐々に成長はしてるんですが、まだ走りがバラバラなんですよね。もう少しきれいな走りができれば、もっと効率良く走れると思うんですが…」と安田助手も手放しで褒めることをしない。常に何かしらの課題を口にされてしまうからこそ、こちらも評価を迷ってしまうのだ。
しかし、そんな状況でも前々走の
新潟大賞典が0秒3差4着、前走の
七夕賞が0秒2差2着。裏を返せば、持っているポテンシャルは相当と考えることもできる。
「確かにそうかもしれません。現状でこれだけ走れているわけですし、乗っていても奥深さは感じる馬。まだまだな部分が多いので辛口の表現になってしまうんですけど、障害練習を取り入れたことでだいぶしっかりしてきたし、例年よりも荒れている馬場も瞬発力に欠ける
ブラヴァスにはプラスでしょう。今回も普通に好勝負はできると思っています」(安田助手)
母や叔父、叔母以上に成長がスローな
ブラヴァスのGI参戦は来年以降と予測しているが、ハンデGIII程度なら現状でも十分に勝ち負け。これは記者も同様の見解だ。ちなみに「食いが良く、現状では少し余裕残し。追い切りと輸送で絞れてくれば」との注釈をもらっているので、当日のパドックを確認してからの馬券購入をオススメする。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)
東京スポーツ