GIII東京スポーツ杯2歳S(月曜=23日、東京芝1800メートルがのちのGI馬量産レースなのも、昨年の勝ち馬が無敗の3冠馬になったのも周知の通りだが、必ずしもそれらが戦前から圧倒的な評価を受けていたわけではない。
コントレイルですら単勝2.5倍。同じく
ディープインパクト産駒で、新馬勝ちからの
ステップだった
アルジャンナも単勝3.0倍とそう差のない支持を集めていた。要は
コントレイルが絶対的な評価を獲得したのは2歳レコード1分44秒5を叩き出し、5馬身差の圧勝劇を飾った後。そう、無敵の3冠ロードの起点となったのが、この東スポ杯だったとしていい。
あまりに昨年の勝ち馬がすご過ぎるがために、「今年は
コントレイルほどの馬は…」と言われてしまいがちだが、レースを終えてみれば、今年もまたスーパーホースが誕生しているのかも…。
ダノンザキッドにはそんな可能性を感じずにはいられない。
6月28日の阪神芝外回り1800メートル新馬戦。好位追走から抜け出してからは流す余裕を見せてなお、後続に3馬身差をつけた。しかも直線を向いて内にヨレるなど、若さを見せながらの圧勝劇が逆に大物感を際立たせることに。安田隆厩舎のスポークスマン・安田景一朗助手は、衝撃の初戦を「緩さのある中で、ああいう勝ち方をしてくれたので、先々が楽しみになったことは確かですね」と振り返る。
ならば、この中間は課題の緩さが解消されて、さらなる進化を遂げている?まさに期待感は高まる一方だが、安田助手から続いた言葉は…。
「放牧で成長を促しましたが、まだまだ緩さが目立つし、まったく完成されてはいないですね。調教でもまだ能力だけで走っているような感じで粗削りなところが目立ちます。たとえば手前の変換もまだスムーズにはいかないし…。初戦の勝ち方でだいぶ期待してもらっているようですが、長い目で見てほしいですね」
意外なほど慎重な言葉が並んだ。とはいえ、1週前追い切りでは、川田を背にウッド併せ馬で6ハロン79.1-11.8秒の好時計をマークして僚馬を一蹴しているではないか。ちょっと慎重過ぎやしませんか?
「いやいや、時計は確かに出てましたけど、内容的にはまだまだ課題だらけですよ。とにかくまだ2戦目ですから、(東スポ杯が)いい経験になってくれれば。先を見据えながら一戦一戦成長していくことこそが大事ですから」
ここまできて、ようやく真意が分かったような気がしてきた。一昨年のセレクトセール当歳で1億円で落札。常に注目を集めてきた期待の素質馬だからこそ、不必要に目立たせることなく、地に足をつけて、しっかりと育成していきたい思いが強いのだろう。
ダノンザキッドが真価を発揮するのはこの東スポ杯か、まだ先のことか。それはまだ分からないが、来春のクラシックのころには主役の扱いを受けていることだけは確信している。
(鈴木邦宏)
東京スポーツ