受験シーズン真っただ中。卒業、入学、就職などによる別れと出会いはもうちょい先のことになるが、東西トレセンではひと足早く、8人の調教師が今月いっぱいで定年、もしくは勇退する形で後進に道を譲る。
私が担当させていただいている厩舎の中では、かの3冠牝馬
ジェンティルドンナを管理していた石坂正調教師がそのうちのお一人。鋭い眼光といかめしい風貌はいかにも勝負師然としていて一見、近寄りがたい雰囲気が漂っているが、実は語り口は軽妙で、時にユーモアを交える一面も。個人的にはレース直後に「おめでとうございます!」とお声がけしたにもかかわらず、写真判定で2着が判明する大チョンボをやらかしているのだが、その際も笑って済ませていただいた思い出が…。
この一年はコ
ロナ感染防止対策もあってなかなか厩舎にお邪魔することもかなわず、あまりお話をさせていただけていないのが心残り。残り2週間でしっかりごあいさつできればいいのだが…。
偉大な先人たちが現場を去っていく傍らで、続々と新たな波が押し寄せるのもこの世界の常。例えば開業4年目の
高柳大輔調教師は
テンハッピーローズ、
ラヴケリーほか、強力な3歳世代を擁し、今年の飛躍が期待される注目トレーナーだ。そんな上り調子の高柳大調教師が
フェブラリーSに送り出すのが
ソリストサンダー。今年最初の
JRA・GIで厩舎悲願の重賞初制覇を狙っている。
もともと佐藤正厩舎の管理馬だった
ソリストサンダーの高柳大厩舎デビューは2019年1月。以降はダート短距離路線で一進一退を繰り返していた。
「能力の高さは佐藤正先生からもお墨付きをもらっていたんですが、とにかくテンションが高い馬で…。ほかにも夏場が弱かったりと、とにかく課題が多かったですね」と高柳大調教師は当時を振り返る。
ところが20年夏に中距離路線に矛先を向けた途端、劇的な変貌を遂げた。初の1700メートル戦だった檜山特別(5着)から掲示板外はただの一度もなく、目下6戦連続で馬券圏内の好戦を続けている。この一変ぶりについて高柳大調教師は「暑さに弱いので北海道に連れていったんですが、うるささも見せずにうまく函館で調整できたことが、その後の成績にもつながっていったんだと思います。短距離よりも中距離のほうが合っているのもあったんでしょうが、結局は精神的な成長が一番大きかったんだと思いますね」と分析する。
そして、
フェブラリーS(21日、東京ダート1600メートル)と同舞台で行われた秋の
武蔵野Sで確かな手応えをつかんだ。中1週の過酷なローテで挑みながら0秒1差2着。本番に向けて大いに夢が広がる走りを見せてくれたからだ。「以前に比べればホント大人になりましたね。今回はGI。自分も馬も
チャレンジャーですから」と前置きしつつも、「今の状態なら展開次第でチャンスもありそう」と自信もチラリとのぞかせている。
上り調子の厩舎の勢いを象徴する上がり馬
ソリストサンダー。高柳大厩舎にとって最高の一年にするためにも、
フェブラリーSは極めて重要な一戦となる。
(元広告営業マン野郎・鈴木邦宏)
東京スポーツ