「賞金○○の馬でどれくらい枠がありそう?」
「○枠はありそうですねえ。確率としては○分の○かな。まだ登録を迷ってる馬がどうするのかで分母は変わってきそうですけど」
「じゃあ、準備はしておかなきゃいけないな」
クラシック第1弾へ向けての
トライアルが全て終了し、日曜には
桜花賞の登録馬が発表。調教師とトラックマンたちの間でこういった会話がなされる季節です。
デビュー前からクラシック出走の期待を背負って順調に勝ち星を積み重ねてきた馬も、もちろんいますが、競馬は何かと思うようにいかないことが多いもの。故障により戦線離脱を余儀なくされたり、馬場状態や恵まれない展開などによって一つのレースを取りこぼしてしまったことにより、晴れの舞台への夢が絶たれるケースも…。
改めて
桜花賞、
皐月賞の現時点での想定メンバーを見ると、そこに名前のある馬たちの努力の足跡が思い返されるとともに、そこを目指した全ての3歳馬たちの無念もいつか報われる日があるはずと願い、運否天賦を思ってつい感慨にふけってしまいますが…。ここでは運を持っていると思われる、
ヴィクティファルスの足跡を振り返ってみたい。
初陣は昨年11月の新馬戦。デビュー前の調教で好時計をマークし、素質は評価されていましたが、陣営はまだ全体的に緩さの残る状態と気性面での幼さが実戦でどう出るか、不安を隠せずにいました。結果的に見事、新馬勝ちを果たしたものの、陣営は追ってからのス
トライドが変わらない点やラストの伸びについて注文を付けることを忘れていませんでした。
そんな状況から成長を促す放牧を経て、迎えた第2戦は2月の
共同通信杯。現状の完成度合いを考慮すれば、キャリア2戦目での重賞挑戦は無謀な選択にも見えましたが…。普段の調教から騎乗を続ける
池添学調教師は「ピッチ走法で前に取りつくまでの脚の速さにはいいものがあります。ただ、そこから追ってどれだけ長く脚を持続できるか。長い直線でそのあたりを試してみたいとも考えているんです」と。
未完成な段階で本格志向の東京の重賞に挑戦させることは、場合によっては大きく後退させることにもなりかねなかったが、結果は2着と強いメンバーを相手に最上と言っていい成果を得ることに成功してみせたのだから大したものです。
確かな自信をつかんで臨む
スプリングS。ここでは調教師の兄でもある池添を新たなパートナーに迎え、3週続けて追い切りに騎乗することで、その特徴と課題を陣営と共有した。「追い切りの動きはすごく良かったですし、ジョッキーにもいい感触をもってもらえたようです。ただ“古馬になればもっと良くなる”とも言ってましたけどね」と苦笑混じりにレースへと臨んだ
池添学調教師も、おそらく同じ思いをもっていたに違いない。
「関東までの長距離輸送も2度目。パドック、返し馬でもすごく落ち着いていましたね。直線を向いたところで外へ振られた時は、この馬の良さである瞬発力が生かせないのではと思いましたが、立て直してからすぐに加速ができて、いい競馬で勝ってくれたと思います。これまで全て違ったコースへの出走で、一戦ごとに上積みを感じるレースができていることも評価できると思います」
スプリングSの勝利をこう振り返った
池添学調教師。その見据える先は
皐月賞?ダービー?いや、もっと先の活躍かもしれないが、目先の1勝を追わず、課題を与え続けた結果、つかんだ現時点での栄誉と自信。どの競馬場も傷みからは逃れられない今年の開催状況とマッチしたピッチ走法から生まれる瞬発力とコーナリングの巧みさは、クラシックの舞台でも大きな武器となり得るものであり、その状況こそが
ヴィクティファルスの引き寄せた強運なのであれば…。一気の戴冠も現実味を帯びたものとなる。
(石川吉行)
東京スポーツ