「死ねば助かるのに」
漫画「
アカギ」の名言である。解釈はいろいろあるが、ザックリ言うと「無欲の勝利」といったところか。
これは記者の仕事にも通じるものがある。「がっつり取材して…」と意気込んでいる時より、なんとなく世間話をしている時のほうが、ポロッといい話を聞けたりするのだから不思議なものである。
つい先日もそんなことがあった。いつものルーティンで庄野厩舎を訪ねると、
ラセットの羽良助手と顔を合わせた。
「馬券儲かってる?」と話を振ってもらったので「サッパリです」と泣きを入れると、いくつか競馬の見方を教えてもらえることに。そのひとつが展開の読み方。展開は逃げ馬がつくるのではなく、その後ろにつける先行馬の顔ぶれが大事なのだという。
そういう意味では、前に強い馬が揃ってペースが流れるであろう重賞は
ラセットにとって競馬がしやすい?
「いやいや、この馬は欲をかいたらあかんねん」
羽良助手、いや羽良先生は
ラセットの特徴についても分かりやすく教えてくれた。
「2走前の
京都金杯(13着)は馬場が荒れているのに、前が残る特殊な馬場だった。それを考慮していつもより前に行く競馬をしたんだけど、最後は脚がなくなってしまって…。この馬はやはり道中ジッと我慢して、直線にかけるくらいでちょうどいい」
そう、
ラセットにとっては“勝ちに行かない競馬”こそがVへの近道。道中どんなに手応えが良くても、自分の形に徹することこそが一瞬の切れ味を最大限に引き出すポイントなのだ。まさに冒頭の
アカギの言葉「死ねば助かるのに」の世界観ではなかろうか。
もちろん、勝ちに行くための準備は怠りない。「普段はまるで怪獣みたい。ヤンチャで手がかかる」と苦笑いの羽良助手だが、「走る馬っていうのはどこかそういうところがあるものだから」。個性を認めつつ、能力に磨きをかけてきた。このGII
マイラーズC(25日=阪神芝外1600メートル)に向けた1週前追い切りでは、坂路でラスト1ハロン12.0秒(4ハロン54.5秒)の好時計をマーク。「いい具合に仕上がってきた」と納得の表情で調整を進めている。
未勝利戦=クビ、1勝クラス=半馬身、2勝クラス=半馬身、3勝クラス(彦根S)=半馬身…。過去4勝はすべて半馬身差以内だった
ラセット。今回も“無欲の競馬”で臨んだうえで、接戦の末に待望の初タイトルをつかんでもらいたい。
(栗東の馼王野郎・西谷哲生)
東京スポーツ