◆第166回
天皇賞・秋(10月30日、東京・芝2000メートル)
中距離の最強馬を決定する伝統の大一番、第166回
天皇賞(秋)・G1は30日、東京競馬場の芝2000メートルに15頭が出走して争われ、
イクイノックス(ルメール)が大逃げの
パンサラッサをゴール前で差し切り、G1初制覇を成し遂げた。春のクラシック2冠でいずれも2着だった3歳牡馬が秋初戦で古馬を撃破するとともに、父
キタサンブラックに産駒初のG1タイトルをプレゼント。“父子盾制覇”の偉業も成し遂げ、ニューヒーロー誕生をアピールした。
未完の「天才」は真の「天才」になった。
イクイノックスは直線に入って
トップギアへ。先頭を行く
パンサラッサははるか15馬身前。ルメールを背に、そこから上がり最速32秒7の脚を繰り出すと、みるみるうちにその差は縮まり、1馬身前に出て先頭でフィニッシュした。「
イクイノックスであればこその脚だった」と木村調教師。
皐月賞、
日本ダービーはともに2着。“
シルバーコレクター”として辛酸をなめてきた。古馬との初対戦に選んだG1で悲願を成し遂げ、トレーナーは力強く両手で
ガッツポーズした。
陣営にとって、思惑通りに迎えられた秋ではなかった。夏の休養による体質強化の程度は期待ほどではなかった。「ギリギリ滑り込んだというか…」とトレーナー。なんとか間に合ったという仕上げで「このパフォーマンスはびっくり」。陣営の想定を超えた潜在能力の持ち主は、1984年の
グレード制導入以後では史上最少キャリアとなる5戦で古馬G1を勝つ快挙も成し遂げた。
“仲間”からも刺激を受けた。23日の
菊花賞を制した同じ3歳の
アスクビクターモアを管理する田村厩舎のスタッフから「(今年の)
日本ダービーの価値を落とすわけにはいかないから
菊花賞を勝った。次は
イクイノックスがなんとかしてください」と背中を押された。そして、いつのまにか増えた
イクイノックスの“応援団”。厩舎には小学生からのファンレターが多数届き、トレーナーはその返信とともに馬のクオカードやストラップなどを送って感謝の気持ちを示してきた。
厩舎を様々な側面から支えてくれた人たちを喜ばせるに違いないG1初制覇。今後は
ジャパンC(11月27日、東京)か
有馬記念(12月25日、中山)が視野に入る。「将来的には日本のG1ホースを海外に連れて行きたい」。木村調教師がかねて抱く夢は、
イクイノックスのタイトル奪取でまた一歩、現実に近づいたはずだ。(恩田 諭)
◆
イクイノックス 父
キタサンブラック、
母シャトーブランシュ(
父キングヘイロー)。美浦・
木村哲也厩舎所属の牡3歳。北海道安平町・ノーザンファームの生産。通算5戦3勝。重賞2勝目。他の勝ち鞍は21年東京スポーツ杯2歳S・G2。総獲得賞金は4億324万2000円。馬主は(有)シルクレーシング。
スポーツ報知