今年の
有馬記念(25日=中山芝内2500メートル)がひときわ異彩を放ち、後々まで語り継がれる特別なレースになりそうな予感がしているのは記者だけではあるまい。例年にも増して豪華メンバーが集結したこともあるが、何より来年2月いっぱいで騎手引退→調教師に転身する
福永祐一にとって、今回が最後の
有馬記念での騎乗になるからだ。
これまで
日本ダービーを3度も制し、2020年には
コントレイルとのコンビで無敗のクラシック3冠を達成。さらに18日には自らが持つ
JRA年間100勝以上の連続記録を13年連続に更新した。もはや「伝説の域」に足を踏み入れたと言っていい名手にとって手にしていない勲章は、勝てば8大競走コンプ
リートとなる暮れの
グランプリジョッキーの称号くらいなもの。ラスト有馬で騎乗する
ボルドグフーシュの走りから目が離せそうにない。
近年こそ頻繁に騎乗しているものの、00年から06年まで7年間の空白期間があるなど、縁がなかった暮れの
グランプリが、福永にとって特別なレースなのは言うまでもない。
「
有馬記念は本当に盛り上がるレース。全馬の返し馬で大歓声が上がるし、パドック、そして馬場入りから乗ってて気持ちいいんだよね。それだけに今回の騎乗依頼はうれしかった。最後の有馬で乗り馬なしでは寂しいと思っていたからね。しかも
菊花賞2着と力のある馬なんだから」
福永が感謝の言葉を口にした宮本厩舎とのタッグでの有馬参戦は18年の
クリンチャー以来2度目。くしくも18日に登録を抹消し、第2の馬生を歩み始めたばかりの馬だ。何やら因縁めいたものを感じずにはいられない。
「(福永)祐一君はウチの厩舎でもオープン入りした
ナリタスプリングほか、いろいろな馬で勝ってもらっていて、厩舎に多大な貢献をしてくれたジョッキーの一人なんです。彼はとにかく調教から馬のことを深く知ろうとする。だから目一杯の走りをする
ボルドグフーシュのことを知ってもらうために1週前(追い切り)はお任せで乗ってもらいました。とにかく馬を万全に仕上げて、レースで祐一君に好きに乗ってもらうことが我々の仕事だと思っています」
宮本調教師はラスト有馬に向けて全面
バックアップすることを高らかに宣言。それに応えるべく福永自身は
ボルドグフーシュをいかに有馬で勝たせるか、その一点に向けて神経を研ぎ澄ませている。
「まだ成長途上の感じもあるけど、ポテンシャル、なかでも操縦性は特に高い馬だと感じている。距離はまったく問題ないし、最後の坂をこなせるパワーもあります。あとは器用さを求められた時にどう対応できるか。ここまでいいスタートが切れていないけど、その原因はつかめているし、そこも含めてサポートしていきたいですね」
その表情は冷静かつ自信に満ちた福永の“いつもの顔”そのものだ。
「有馬はこれが最後…という少しセンチメンタルな気分にはなりますが、自分のやるべきことは変わらないですからね。自分の記録自体は意識していない。
ボルドグフーシュが
有馬記念という舞台でいい結果を出せるよう、その能力を最大限に引き出す。自分の仕事を遂行するだけです」
福永のラスト有馬が果たしてどのような形で幕を閉じるのか。しかと見届けたいと思っている。
(元広告営業マン野郎・鈴木邦宏)
東京スポーツ