NPBを代表する「セット
アッパー」として地位を確立した感のある西武
ライオンズの平良海馬投手が、先発への転向を訴え、契約を保留したニュースをご記憶の方は多いのではないか。交渉の末、結果的に平良投手の願いが聞き入れられる形で一応の決着をみたが、球団としては勝ちパターンを変えることに抵抗があるのは至極当然。そう、うまくいっているうちは変化を求めたがらないものなのだ。そこをあえてチャレンジする平良投手の勇気は称賛に値するものだと思う。
GIII
根岸S(29日=東京ダート1400メートル)に出走する
ギルデッドミラーもうまくいっていたがゆえに、路線を変えるに変えられなかったクチだ。頂点の
NHKマイルC3着善戦に加え、
アーリントンC、
京都牝馬S2着など重賞好走歴は多数。しかも負けても着差0秒9以内と大きく崩れることが一度もなかったとなれば無理もない。一方で勝ち切れないことで賞金加算がままならず、思うようなレースを使えない状況にもなっていた。
「もともとパワーとスピードを併せ持つタイプで、調教でもうなって走っていましたからね。ダートは合うと思ってはいたんですが…。芝でも(崩れなく)走っていただけに、切り替えのタイミングが本当に難しかったですね」(松永幹調教師)
転機となったのは5歳春の
京王杯SCだった。ゲート内で何度も立ち上がり致命的な大出遅れを喫した
ギルデッドミラーは9着に敗れた。ゲートも含め立て直しを図るにはちょうどいいタイミング。ダートに矛先を向けることを決断した。
そこからの快進撃は周知の通り。ダート転向初戦の
NST賞で勝利を飾ると、次走のグリーンチャンネルCこそレコード決着の2着に敗れたものの、前走の
武蔵野Sで芝では惜しくも届かなかった重賞タイトルを手にしてみせた。ド素人記者としては「もっと早く使っていれば」なんて短絡的に思ってしまうのだが…。担当の細見助手はそんな浅はかな考えをやんわりと否定する。
「徐々に気性面の成長が見られる中で、すべてがかみ合ったタイミングが
NST賞だったのだと思います。仮にもっと前にダートに使っていても、結果がどうなっていたかはわかりませんよ」
オルフェーヴル産駒特有の気性の激しさに手を焼いた時期もあった。
「前進気勢が強過ぎて…。稽古で気が入るだけ入って、競馬に行くとひっかかるような状況。調教師とも相談しながら、いろいろと試行錯誤を繰り返しました。そんな気性だから砂をかぶせるくらいのほうがいいみたい。芝の時のようにコントロールが利かなくなることはなくなりましたね」
陣営の様々な工夫による気性面の成長と思い切って条件を替える陣営の勇気ある決断。数々の要因がタイミング良く重なったことにより、ダート替わりでの劇的な変貌を可能にしたのだ。
所属クラブの規定により今春までに引退を迎える
ギルデッドミラーにとって、
フェブラリーSはフィナーレ目前に迎えるGI戴冠の
ビッグチャンス。その重要な前哨戦で本番への期待感が膨らむ走りを見せてくれることをド素人記者なりに確信している。
(元広告営業マン野郎・鈴木邦宏)
東京スポーツ