ノーブルライジング(
きさらぎ賞、5日=中京芝2000メートル)が昨年10月8日の阪神で初勝利を挙げた約4時間後、同日同競馬場で行われた戎橋Sを先頭で駆け抜けたのは彼の姉
エルカスティージョでした。結果的に彼女はこれが引退レース。偶然と言ってしまえばそれまでだけど、やはり競馬場では目に見えない力が、気まぐれないたずらをすることがあるんじゃないか…と思ったものです。
「
エルカスティージョは違うけど、
ノーブルライジングの兄(
ノーブルストリーム)がウチの厩舎にいたんです。未勝利に終わりましたが、それでもオーナーが続けてこの産駒を買われたのは、きっと何か感じるものがあったのだと思います」
冒頭の“偶然”についてお話ししていた時、そう教えてくださったのは
ノーブルライジングを担当する石原助手です。
以前は黄色い
シャドーロールから“オムレツ君”のあだ名で愛された
ノーブルマーズも担当。あの馬の長い活躍を支えた方だからこそ、同じオーナーの期待馬を任されることになったのでは?私はそう感じたのですが、当のご本人は「いやいや、たまたまですよ(笑い)」と謙虚です。
そんな石原助手に
ノーブルライジングの印象をお聞きしてみると…。
「とにかく柔らかいですよね。初めてまたがった時は柔らか過ぎて怖いくらいだった。こちらが予測できないような動きも簡単にできちゃう感じ」
主戦である国分恭騎手も同じ意見だったそうで「僕が今まで乗った馬の中で一番柔らかい」と言っていたのだとか。今までに経験したことのない乗り味を持った馬だったからこそ「この馬とダービーに行きたい」とまでの言葉が出たのではないでしょうか。
冒頭の未勝利戦を勝ち上がった時、国分恭騎手は「脚を計る乗り方をした」そうですが、前走の1勝クラス(4着)では序盤でムキになるシーンも…。そのあたりについて石原助手は「とにかく馬が好きな子で、普段から前に馬がいると一緒に走りたくて追いかけていくんですよ。前回は休み明けで元気が良過ぎたのと、スタートで置いていかれたことで馬が慌ててしまった感じ。まだ精神的に子供で苦しがりなんで、休み明けにメイチの仕上げはできなかったところもある」と明かしてくれました。
一方で12キロの馬体増に関しては「明らかに背が伸びて帰ってきたので太め残りとかではない」と。今回はレースを叩いた後の調整なので前走時よりやりやすかったようですし、ジョッキーの進言もありクロス鼻革を試しているそうです。
「普段はかかるタイプじゃないんですが、それでも乗りやすさ、コミュニケーションの取りやすさという点で効いているみたいです。ちょっとしたことだけど、鼻梁を軽く抑えられると落ち着く馬っているんですよね。鼻腔は圧迫せず、逆に口は開きづらくなる分、割ったりしなくなるからね」
ノーブルマーズの場合は
デイリー杯2歳S(3着)時から着け始めた
シャドーロールにより本来の力を出せるようになったとか。馬具は「魔法の道具」ではないけど、馬が大好きな
ノーブルライジングが“前の馬にくっついていきたい”一心で慌ててしまう意識が、少しでも自身の走りのほうに向いてくれるなら…。彼の強みである“長く続く脚”をより生かすことができるはずです。
未勝利戦をドラマティックなエピソードとともに勝った彼だけど、今回はここへ向けて追い詰め過ぎないように調整してきた厩舎の方の努力と、普段から熱心に乗る上でクロス鼻革が良いと導き出したジョッキーによる“綿密な計算の上に成り立った勝利”を見せつけてくれないかな…と思っています。それこそ競馬場に存在する不思議な力が、いたずらをする隙も与えないくらいの。
(栗東の上昇女子・赤城真理子)
東京スポーツ