昨年の
天皇賞・春で見せた「現役最強ステイヤー」
タイトルホルダーの“圧逃劇”を鮮明に覚えている方は多かろう。一方である意味、もう一頭の主役として大きくクローズアップされた馬がいたこともまた多くの方の記憶に残っているのでは? 発馬でつまずき、騎手が落馬しながらも、カラ馬のままゴールまで走り切ってしまった
シルヴァーソニックである。
レース中の走りも衝撃的だったが、レース後もまた衝撃的なシーンが展開された。疲弊が激しかったのか、
シルヴァーソニックは外ラチを跳び越えて転倒。しばらくは起き上がれないどころか、動く気配すらなかった。その光景をゲート裏から見ていた担当の池本助手は「(自分自身も)動けませんでした」と振り返る。
カラ馬のまま懸命に走る姿に心を打たれたのか、はたまた、しばらくはピクリともしなかったのに何事もなかったかのようにムクッと起き上がり、歩き始めた愛らしさに心ひかれたのか…。レース後はファンレターが厩舎に舞い込むほどの人気者となったことをご存じの方もまた多いことだろう。
シルヴァーソニックがすごいのは、昨年のあの衝撃的なシーンの数々が大きな話題を集めた馬…では終わらなかったところ。7か月ぶりの競馬となった暮れの
ステイヤーズSで重賞初制覇を遂げると、2か月の休養を挟んだ今年初戦のサウジ・レッド
シーターフハンデキャップで海外重賞タイトルまでもゲット。今回はまさに大きな勲章をひっさげてのリベンジマッチとなるわけだ。
「気性的にもいい意味でズブとい感じの馬なので、向こうでも変わりなく過ごせていました。国内でしっかり追い切っていたこともあり現地では軽めの調整にとどめましたが、あれだけのパフォーマンスを見せてくれて。自分にとっても初めての海外でしたし、この勝利は馬だけでなく、僕自身にも大きな自信になりました」(池本助手)
好位追走から直線で2馬身半抜け出したレッド
シーターフHの鮮やかな勝ちっぷりは人馬ともにステージを上げるものになったのかもしれない。
「もともとはシャープな体つきの馬なんですが、昨年の天皇賞くらいから(放牧先から)帰ってくるたびに馬体を大きく見せるようになってきたんですよね。海外でもフックラと見せていましたし、馬が充実期に入った感じがします」
7歳にしていよいよ本格化ムードを漂わせる
シルヴァーソニック。その父
オルフェーヴルは言わずと知れた3冠馬。祖
父ステイゴールドから続く「名門・池江厩舎」ゆかりの血統だ。
「
ステイゴールドも7歳の時が一番強かったからね。本当に堅実に走れるようになってきました」と目を細める池江調教師は「昨年のリベンジはもちろんだけど、
オルフェーヴルも(2012年の)
天皇賞・春は残念な結果に終わっているからね。父の無念を晴らすという意味でも頑張ってほしい」と1番人気に支持されながら11着に惨敗した厩舎の
シンボル的存在のリベンジも託す。
天皇賞・春(30日=京都芝外3200メートル)で自身だけでなく、父のリベンジも果たし、春の盾奪取を成し遂げることができるのか。昨年とはまた違った意味での衝撃的なシーンが展開されることを期待せずにはいられない。
(元広告営業マン野郎・鈴木邦宏)
東京スポーツ