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【朝日杯FS】エンヤラヴフェイス 調教欄に載らない調教で“バトルフェイス”になった!/トレセン発秘話

東京スポーツ
  • 2023年12月15日(金) 18時01分
「習性」というのは不思議で、神秘的ですらあると感じています。

 サラブレッドは何百年という歴史を経て、野生の馬から人間が創り上げてきた芸術品と言ってもいい生き物。肉食獣に襲われた経験なんて先祖代々一度もないだろうに、トレセンで見るサラブレッドたちは本当に臆病で繊細です。

 私が見たことがあるだけでも、脚に巻くバンデージの切れ端が落ちているのに驚いてパニックになったり、人がどんぐりを踏んでしまった“パキッ”という音に怖がって逃げ出したり…。遺伝子に刷り込まれた草食動物としての本能は、いまだ消えてはいないのです。

 それでも「習性」を凌駕するほどの「個性」を見せる馬もいます。レース中に抜かされそうになるとかみつきにいったというサンデーサイレンスや、怪物と呼ばれるほど狂暴だったというセントサイモンのように、草食動物らしからぬ伝説が残っている馬たちがいる一方で、その手の荒々しいエピソードとは真逆というか、「前に馬がいるだけでやる気をなくす」ように見える馬も…。朝日杯FS(17日=阪神芝外1600メートル)に出走するエンヤラヴフェイスです。

 馬は基本的に群れで生活する生き物のため、1頭では調教に行くのを嫌がる馬でも、前に誘導馬がいるとおとなしくついていく傾向にあります。競馬場でも馬場入りの際、誘導馬の後ろにつけて落ち着かせている光景をよく見ますよね。

 しかしエンヤラヴフェイスのデビュー2戦目、新潟2歳S7着は“他馬が前に入ってきたことで嫌気を差した”ことが敗因のよう。そこから進んでいかなくなってしまったというのです。一方で外めをスムーズに運べた3戦目のデイリー杯2歳Sでは直線半ばから新馬戦で見せたような脚でしっかりと加速して2着に。エンヤラヴフェイスに確かな能力が備わっていることは疑いようがありません。

 管理する森田調教師はこの中間、前に馬がいることに慣れさせるために、普段から馬の後ろにつけて歩かせたり、僚馬を追いかける併せ馬を重ねてきたといいます。

「要は慣れだと思うから。今後、大きな舞台で戦っていくには“モマれたらダメ”とか、“前に馬がいたらやめる”だとか言ってられない。何度も繰り返すことで慣れさせ、レースで力を発揮できるようにさせたい」

 今はまだ完璧に克服したとは言えない段階のようですが、2戦目より3戦目のほうが立ち回りが上手になっていたように、馬は学習能力が高い生き物です。普段の練習が生きているからこそ、本番でゲートが開けば一気に加速していくし、コーナーに沿って回ってくるし、ジョッキーの“行け”の指示に応えてギアを上げる。普通にやっているようですが、その背景には右も左も分からない「とねっこ時代」を経て牧場やトレセンで行われてきた競走馬になるためのトレーニング、そして人との意思疎通があり、それを馬が学習してくれて成り立っているのです。

 エンヤラヴフェイスに“前の馬を追いかける”習性を思い出させ、周りに馬がいたって決して怖くないんだと教え込んできた、決して調教欄には載らない地道な日々が、本番で彼の素晴らしい脚を引き出すトリガーになってくれるのではないでしょうか。

(栗東の追っかけ女子・赤城真理子)

東京スポーツ

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