“世界ナンバーワン”の称号にふさわしい強さでGI・6連勝を果たした
イクイノックスが
ジャパンCを最後にターフを去った。すべての競馬ファンが
イクイノックス・ロスを抱える中で、2023年の総決算を迎える。
「核」を担うべきは大舞台で
イクイノックスに真っ向勝負を挑んだ面々。今年の競馬界を大いに盛り上げながらも、最強馬の前では脇役に甘んじざるを得なかった馬たちが、最後の最後に主役の座をつかみ取るべく気合をみなぎらせることで、年末恒例の大一番は例年以上の盛り上がりを見せるに違いない。
そんな出走メンバーの中で異彩を放つ存在としてひそかに注目しているのが
アイアンバローズ。3000メートル以上の長丁場で何度となく光る走りを見せてきた生粋のステイヤーだ。
6歳を迎えた今年は好調時のしぶとさが影を潜め、2桁着順に沈むこともしばしば。能力減退がささやかれる中、8番人気の低評価を覆したのが前走の
ステイヤーズSだった。2周目でハナを奪ってからは大逃げの形。経験の浅いラ
イバルたちが長丁場での体力温存を図っているとみるや、後続が進出を開始する勝負どころ前に強気のロングスパートを決行。2馬身半差の圧勝で逃走劇を完遂してみせた。
「年齢を重ねたことで折り合い面なども含め乗りやすくなっているのに、逆にレースではなかなか結果を出せない。この馬の良さであるスタミナ、心肺機能の高さを生かすようなレース展開に持ち込めなくなっているんだよね。能力自体が落ちてるとは感じてないけど、最も得意とする条件の整ったレースで結果が出せないとなると…」
ステイヤーズSを迎える前、管理する上村調教師には悲壮感すら漂っていた。仮にここでもダメなら…。崖っぷちに追い込まれた一戦で、見事に復活劇を演出してみせたのが久々にコンビを組んだ
石橋脩。過去にGIIで2着が2回、GIでも5着と
アイアンバローズが最も輝いていた時期にタッグを組んだ、特徴を最もよく知るジョッキーに託された期待は、強気の攻めた騎乗で最高の結果へと結実した。
「馬の闘争心をなえさせることなく、レースを進めてくれたことが大きい。折り合いがつきやすくなっているからといって、楽なペースに落として脚をためようとしても“これくらいでいいんだ”って感じで馬が気持ちをなくしてしまう。ターフビジョンでレースを見ていて、直線で後続に迫られた時も、この展開なら“勝ったな”と確信できましたよ」
この日は阪神の
チャレンジCに同厩舎の
ベラジオオペラが出走。長い写真判定の末につかんだ勝利だったため、中山の
ステイヤーズSでスタートが切られた時、阪神ではウイナーズサークルでの表彰式の準備が進められている最中。東西のメイン重賞ジャックの偉業を見事、成し遂げたのだ。
その翌週には
アイアンバローズの有馬ヘのエントリーを決めていた。
「もともとがタフな馬で長い距離を走った後でもダメージが残った様子はなかった。13日には坂路で速いところ(4ハロン53.1-12.9秒)をやれたくらいですからね。距離は2500メートルよりもっとあったほうがいいんですが、中山コースの適性は高い。前走でいい勝ち方ができたことで、出走する資格は得られたんじゃないかなと。この前と同じような競馬でと思っているから、同型の馬にとっては嫌な存在になるかもしれませんね」
ステイヤーズSでの
アイアンバローズの走りに、昨年の
天皇賞(秋)、今年の
ジャパンCを伝説のレースへと引き上げた
イクイノックスとは別の立役者「
パンサラッサの大逃げ」を重ねた方もいたのではないだろうか。前日に
パンサラッサの引退式が行われる中山競馬場で、
アイアンバローズがけれん味のない逃げの手に打って出れば、
有馬記念(24日=中山芝内2500メートル)はこのうえない盛り上がりを見せることだけは間違いあるまい。
(栗東の時々バーン野郎・石川吉行)
東京スポーツ