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“手塚イズム”継承 矢嶋師名調教師への第一歩

スポニチ
  • 2024年03月06日(水) 10時05分
 日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は東京本社の鈴木悠貴(32)が担当する。きょう6日は新規調教師の開業日。美浦で活躍が期待される矢嶋大樹師(44、写真)が、これまでの競馬人生と今後の目標を語った。

 福永師に負けぬ腕利きが美浦にいる。名門・手塚厩舎でノウハウを学んだ矢嶋師だ。「前に取材で“手塚先生を超えるくらいの成績を残したい!”と答えたんだけど、よく考えたら手塚先生より調教師期間が短いからそれは難しいんですよね(笑い)。それでもそういう意気込みでやっていきたいです」。

 2頭の名馬が矢嶋師を競馬の世界に導いた。高崎高校在学時、ナリタブライアンを好きだった同級生に感化され、94年菊花賞で初めてレースを観戦。マヤノトップガンの勝ちっぷり、レース後の競馬場の雰囲気に衝撃を受けた。「競馬ってこんなに人の歓声を浴びるのか、とびっくりしました」。サクラローレルが制した96年中山記念も忘れられないレース。「1年1カ月のブランクがありながら、あの差し切り。陣営の苦労が見えたような気がして、格好いいなと思いました」。

 07年に浅野厩舎に所属してから17年。思い出の馬は、手塚厩舎に転厩した12年に出合った後の桜花賞アユサンだ。「厩舎に来てすぐだったのに、先生から調教を任せてもらいました。体の弱い馬でおっかなびっくり乗っていたのを今でも覚えています」。苦労の末、夢のG1制覇。もちろん喜びもあったが、悔しさの方が大きかった。「ああいう大きな舞台に立てたことは自信になったけど、こうしておけば良かったなと思うこともあります」。

 調教師を本気で目指すきっかけになったのは“家族会議”。「(妻の)智子から“あなたは厩務員としての才能はないでしょ?”と言われて、確かにと(笑い)。そこからしっかり勉強を始めましたね」。12年から毎年受験し11度目で見事合格。「僕はサラリーマン家庭で育ったけど、妻の実家は個人事業主。妻は個人事業主の大変さを知っていたから、合格を報告した時は喜びと不安の表情をしていましたね」。

 調教師としての信念は「辛抱」と「信頼」。「手塚先生は僕の働く姿勢を見て、実績関係なしに徐々に信頼してくれた。それが本当にありがたかったし、僕もそういう思いを忘れずスタッフと接していきたいですね」。開業初週は2頭がエントリー。「いろいろな方の思いがつながって成り立つのが競馬。そういう思いを大事に初週を終えたいです」。手塚イズムを受け継ぐ矢嶋師が、名トレーナーへの第一歩を踏み出す。

 ◇矢嶋 大樹(やじま・だいき)1979年(昭54)8月2日生まれ、群馬県出身の44歳。慶大卒業後、06年にJRA競馬学校厩務員課程入学。07年から美浦・浅野洋一郎厩舎の厩務員、調教助手。12年から手塚貴久厩舎の調教助手。趣味はDIY。

 ◇鈴木 悠貴(すずき・ゆうき)1991年(平3)4月17日生まれ、埼玉県出身の32歳。千葉大法経学部を卒業後、14年にスポニチ入社。昨年1月から競馬担当。

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