2013年夏の特別企画。担当馬に愛情を持って接している厩務員さんや調教助手さんと愛馬との「絆」をお届けします。普段なかなか知ることのできない、競馬の舞台裏。トレセンで日々取材しているライター陣が、とっておきの温かいエピソードをリレーでご紹介します(8月の毎週金曜公開)。今週はコラム「おじゃ馬します!」「競馬の職人」でお馴染みの赤見千尋さんです。
今年の日本ダービー。青葉賞を勝って挑んだヒラボクディープは、13着に惨敗。担当厩務員の今村美佐子さん(美浦・国枝栄厩舎所属)は、5日間夜布団の中で泣いたという。蛯名正義騎手から「返し馬が一番緊張する」と言われるほどのやんちゃな愛馬。その素顔を語ってもらった。
―やんちゃ坊主―
「人を振り落すのが本当に上手で(笑)。人が乗ると、何とかして振り落そうとするんです。ずっと暴れてるんじゃなくて、ここぞという時に尻っぱねして。蛯名さんも内田博幸さんも落とされました。普段は大人しいんですけど、調教の途中に馬場内で移動する時にやるんです。もう、尻っぱねの次元が違いますね。尻尾が乗ってる人の後頭部に当たるらしいですから。
それで落とすと、『ひゃっほー』みたいな感じで嬉しそうにお家に帰って行くんです。『俺、やってやったぜ』みたいな満足した顔になってて。相当頭いいですよ。
特に青葉賞を勝った後は、ダービーという大きな目標に向けて毎日攻めて、カイバもいっぱいあげていたので、より激しくなりました。尻っぱねすることに生きがいを感じてるなと(笑)。それに、青葉賞を勝って自信がついたみたいで、自分より後から来た馬に対して急に威嚇するようになったんです。もともとは他の馬が怖いタイプだったのに、ずいぶん強気になったなって思いました」
―子供のように―
「蛯名さんからも言われてて、しつけをちゃんとしないといけないなと。もう自分の子どもみたいな感じなので、人様に迷惑をかけないように、ジョッキーに乗ってもらって怒られないようにと。
ただね、ホント悩むんですよ。怒っていうこと聞くならいくらでも怒りますけど、今までこの仕事をして来て、馬にも自信が必要みたいで、怒り過ぎても良くないので。前に一頭見たことがあるんですけど、すごく大人しくはなったんですが全然走らなくなった馬がいて。人間のスポーツ選手でもそうですけど、何かこう燃え上がるようなものがないと。あんまり押さえつけ過ぎちゃうとダメなので、ちょうどいいところを目指してます。わたしが怒ると、『ごめん』みたいな表情するし、ビビった顔して『やばい』って感じになったりするので。馬の表情を見ながら、様子を見て怒ってます。
ダービーの前にみんなで話し合って...