グランアレグリアはいなくても、充分な好内容
今週12月16日の「朝日杯FS」に牝馬グランアレグリア(父ディープインパクト)が出走を予定している。もう半年も以前の対戦なので互いの成長度は異なるが、グランアレグリアは6月の牡馬相手の新馬戦で「阪神JF」を勝ったダノンファンタジー(父ディープインパクト)に完勝している。
したがって例年と違い、桜花賞路線の最大のベースとなる阪神JFが終了しても、まだ実況アナの叫んだ2歳女王決定とはならず、この世代の最初の(気の早い)勢力図やランキングはもう1週待たなければならない。しかし、そのグランアレグリアを別にしても、今年の阪神JFは好内容だった。
レース全体の流れは、近年の阪神1600mに多いバランスの取れたペースで「47秒1-47秒0」。それでいながら全体のタイム「1分34秒1」は十分に速いのだから、レースの中身に紛れの要素は少ない。実際、上位4着まではファンが「1,2,4,3」番人気に支持した馬だった。
新阪神になって13回目、1分34秒1は「5番目」に相当する速い時計だった。改修直後の1、2年はとくに時計が速く、また年によって馬場差はあるが、現在も基準タイムとして残る1分33秒1の最高時計で勝った2006年のウオッカは、翌年の日本ダービー馬となった。翌2007年、1分33秒8で勝ったトールポピーは翌年のオークス馬である(6着だったレジネッタが桜花賞馬)。
3番目に速い1分33秒9が記録された2013年の勝ち馬レッドリヴェールは桜花賞2着。ハナ差同タイム2着のハープスターは桜花賞を制し、オークス2着。4番目に相当する1分34秒0が記録された2016年の勝ち馬ソウルスターリングは、桜花賞は3着でもオークス馬となった。2着のリスグラシューは桜花賞を2着し、エリザベス女王杯を勝ち、先週9日の香港ヴァーズも勝ったに等しい微差2着である。
つまり、時計が速ければいいというものではないが、今年の1分34秒1より速い時計で決着した年の勝ち馬(小差好走馬)は、驚くほど例外なく、翌年のクラシックで快走しているのである。
今年の阪神JF上位組は、16日の朝日杯FSのグランアレグリアはとりあえず別にして、かなり強気になっていい。ここまでの歴史が広がる未来を約束している。
勝ったダノンファンタジーは後方に控えて進み、外から来たクロノジェネシス(父バゴ)と馬体を併せるように外に出し、追い比べで競り勝った。ここが4戦目。追って一段と鋭くなっている。母ライフフォーセールは、サトノダイヤモンドの母マルペンサなどと同じくアルゼンチン産。同国の2000m級ダートGIの2勝を含み計8勝。母の父は日本での活躍馬も多いカロの孫世代。祖母の代から前は長くブラジルで発展したファミリーで、祖母の父スキーチャンプはこれも日本に関係の深いスキーゴーグル(父ロイヤルスキー)産駒。スキーパラダイス(キャプテントゥーレの祖母)、果敢にケンタッキーダービーに挑戦したスキーキャプテンの半兄にあたる。母方は少なくとも早熟系ではない。
後方待機から鋭い末脚で競り勝ったダノンファンタジー
2着クロノジェネシスは、パドックの後半からちょっと気負い気味だったか。それでも、鋭い身体で文句なしの仕上がり。スタートで隣のタニノミッション(父インヴィンシブルスピリット)にいきなり前を横切られ、最後方近くからの追走になったが、北村友一騎手は落ち着いて少しも慌てなかった。4コーナーで大外に回った瞬間、C.デムーロ(ダノンファンタジー)の激戦慣れした巧みな寄せ方に一本取られたが、期待通りに伸びて上がり最速の33秒9。負けはしたが中身は十分。小柄な馬体を大きく見せていた。これでひと息入れられる理想のローテーションが組める。
3着ビーチサンバ(父クロフネ)は、上位4頭の中ではもっとも無理なく流れに乗り、抜け出して差された前回より、一歩待ってスパートできた。スキなしのレース運びで、前回は2分の1馬身差されたシェーングランツ(父ディープインパクト)に4分の3馬身先着は、上々の内容だろう。
ただ、クロフネ産駒にありがちな傾向だが、今回先着を許したダノンファンタジーや、クロノジェネシスのように鋭く切れるライバルには高速レースだと分が悪いタイプかもしれない。崩れないしぶとさが生きるタフな芝コンディションの方がいいだろう。これはフサイチエアデール産駒(ライラプス、全兄フサイチリシャール、全兄サイオン)に共通の特徴かもしれない。
4着に突っ込んできたシェーングランツは、1、2着馬とほぼ同じような位置にいたが、武豊騎手は直線に向き、(これからのためにも)馬群に突っ込む形を取りたかったのかもしれない。中ほどから外に切り替えた分と、必ずしもマイルがベストとはいえない反応の遅さが勝ち馬との0秒3差と思える。半姉ソウルスターリング(父フランケル)は桜花賞を3着に負けてオークスを制したが、妹の方がもっとそういうタイプではないかと映った。
10キロ増えて素晴らしい気配だった5着プールヴィル(父ルアーヴル)は、直線、ちょっと狭くなって追い出しが遅れたが、インをついた利もあったから、不利がなくても4〜5着だったか。だが、小柄でも非力ではない。
注目のタニノミッション(母ウオッカ)は、多くのキャリア1戦馬が素質はあっても苦しんだ「いきなりGI」での死角が、典型的な形で出てしまった。馬群に入った前半はずっと周囲に気をつかい通しで、首を上げ、自分のリズムのフットワークではなかった。しかし、それで7着(0秒8差)に差を詰めてきたから立派。いきなりのGIは苦しかったが、桜花賞までまだ4カ月もある。十分に追いつける。