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【短期集中連載】たった一度っきりの“マッチレース” 1996年阪神大賞典−ナリタブライアンvsマヤノトップガン−(第3回/全7回)

  • 2019年03月12日(火) 18時00分
ナリタブライアン

▲ マヤノトップガンがようやくタイトルを手にした1995年の菊花賞


第3章 マヤノトップガンの台頭


 マヤノトップガンは1992年、北海道の川上悦夫牧場で生まれた。父はこれが2世代目の産駒となるブライアンズタイム。母はアメリカ産で不出走、セリ市で購入されて日本へやって来たブラッシンググルーム牝馬のアルプミープリーズ。栗東の坂口正大厩舎に預けられたマヤノトップガンは、入厩は2歳春と早かったが、デビューは年明けの3歳1月まで待たなければならなかった。

 デビューが遅くなったのは、とにかく体質が弱かったからだった。当初は馬体も細かったマヤノトップガンは、入厩して1カ月ほどで骨瘤が出たため、すぐに育成牧場へ逆戻り。その後も脚元の不安はなかなか解消せず、思い切った調教もできないまま、アッという間に年を越してしまう。ようやくこぎつけたデビューの舞台にダート1200mが選ばれたのも、血統やフォームからの適性ではなく、ただただ脚元への負担を考えてのことだった。

 その初戦は5着。初勝利は4戦目で、その後も6戦目まではすべてダート1200m戦を走ったマヤノトップガン。2勝目は中京のダート1700m戦で、ちょうど同じ日、東京ではこの世代のダービーが行われ、タヤスツヨシが同世代の頂点に立っていた。

 マヤノトップガンが初めて芝を走ったのは、3歳6月の通算8戦目だった。その次走、芝1800mの900万下、やまゆりSで3勝目を挙げる頃には、ようやく脚元の不安はほぼ解消していた。

 秋、マヤノトップガンはついに重賞に出走する。菊花賞トライアルの神戸新聞杯だ。

 当時、菊花賞のトライアルは関西だけで2戦あった。まず9月の阪神で神戸新聞杯、その1カ月後に京都で京都新聞杯、そして3週後に本番の菊花賞という流れだ。のちに坂口調教師は、「神戸新聞杯の時点では、まだ菊花賞云々とまでは考えていなかった」と、振り返っている。

 神戸新聞杯でタニノクリエイトの2着と好走したマヤノトップガンは、続いて京都新聞杯に出走した。そしてその中間、坂口調教師は初めて愛馬の成長に心底、驚いたという。馬体は春とは比べものにならないほど幅が出ていた。坂路調教でも好タイムが出るようにもなっていた。同じ馬がここまで変わるものなのかと、坂口調教師は目を見張った。

 京都新聞杯はナリタキングオーに届かず、またもクビ差の2着だった。しかし坂口調教師は密かな自信を持って、マヤノトップガンを菊花賞へと送り出す。

ナリタブライアン

▲ 惜しくも重賞制覇はならなかったが、本番に向けて手ごたえをつかんだ1995年の京都新聞杯



 皐月賞馬ジェニュインは天皇賞(秋)へ向かい、タヤスツヨシは神戸新聞杯5着、京都新聞杯7着と不振にあえいでいた。オークス馬で、フランス遠征から帰ってきた牝馬ダンスパートナーが1番人気という混戦模様のなか、マヤノトップガンは3番人気に推された。

 道中は4番手を追走し、勝負どころから抜群の手応えで上昇したマヤノトップガンは、4コーナー先頭で直線を向く。そこからは、まさに盤石の走りだった。後続をまったく寄せ付けず、最後はトウカイパレスに1馬身1/4差。勝ちタイムの3分04秒4は、前年にナリタブライアンが樹立した記録をさらに0秒2上回る圧巻の日本レコードだった。



 アッという間にGI馬に上り詰めたマヤノトップガンの3歳最後の一戦は、有馬記念となった。ヒシアマゾン、ジェニュイン、サクラチトセオー、タイキブリザード。錚々たるライバルのなかには、股関節炎から復帰後、天皇賞(秋)、ジャパンCと凡走が続くナリタブライアンもいた。

 強風の吹く師走の中山で、マヤノトップガンはデビュー以来初めて、スタートから逃げるレースを敢行した。田原成貴騎手との呼吸は一糸乱れず、4コーナーを回って直線に入ると後続を引き離し、独走状態に。後方ではナリタブライアンが2番手に上がり、そして一杯になって後退。タイキブリザードが懸命に伸びるが、マヤノトップガンはその2馬身前でゴールしていた。



 3月にはまだダート1200mの未勝利戦で敗れていた馬が、1年の終わりに有馬記念を勝って年度代表馬にまで選ばれたのだ。成長、充実、完成。どれだけ言葉を尽くしても表現しきれないほどの勢いとともに、マヤノトップガンは3歳シーズンを終え、4歳の年を迎えた。

 目指すは天皇賞(春)。始動は、阪神大賞典からとなった。

(つづく)
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