昨夏、ヨカヨカが北九州記念で重賞制覇を果たし、一躍注目を集めた九州産馬。国内で生産されるサラブレッドのほとんどが北海道で生まれていますが、かつて九州も一大馬産地の一つでした。特に、ヨカヨカが生まれた熊本県のほかに、今も鹿児島県や宮崎県でサラブレッドは生産されています。
先週、佐賀競馬場では「九州産限定の2歳新馬戦」が行われたのですが、意外にも地方競馬史上初のレースでした。その「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。
九州産馬を盛り上げたい
毎年、夏になるとJRA小倉競馬場で行われる九州産限定の2歳新馬戦。
「テイエム」の冠名や「カシノ」の冠名などを擁する九州産馬を愛するオーナーの馬が複数頭出走することもあり、それもまた名物の一つになっています。
さらには、8月末には2歳オープン特別のひまわり賞がこれまた九州産限定戦として行われます。
同じく九州にある地方競馬・佐賀競馬場に目を移すと、3歳2月頃にJRA交流レースのたんぽぽ賞が、夏から秋にかけては3歳以上のJRA交流レースで霧島賞が九州産限定として行われています。
霧島賞は2011年に競馬場が廃止されるまで約10年間は熊本県の荒尾競馬場で行われるなど、JRA・地方問わず九州にある競馬場では九州産限定のレースが大切にされてきました。
ところが、意外にも地方競馬では九州産限定の2歳新馬戦がこれまで一度も行われたことがなかったのです。
そこに新しい風を吹き込んだのが6月4日佐賀4レース。
「地方競馬史上初」と銘打たれ、九州産限定の2歳新馬戦が行われたのでした。
これまで九州で地方競馬を盛り上げてきた先述の荒尾競馬場や大分県の中津競馬場などは廃止され、九州にある地方競馬場は佐賀競馬場だけとなってしまいましたが、「九州唯一の地方競馬場として、九州産馬を盛り上げたい」という思いもあったと聞きます。
記念すべき勝ち馬は、ヨカヨカと同じ父
デビューを迎えた10頭は熊本県、宮崎県、鹿児島県で生まれたサラブレッド。
その中にはヨカヨカと同じ本田土寿さんの生産馬も3頭いて、うち1頭はマダナゾナノダゾ(まだ謎なのだぞ?)というアナウンサー泣かせの馬名でした。
レースはワンターンの900mで行われ、好スタートを決めたヒイズルが逃げ、ゴール直前でタイムオブライフに詰め寄られましたがクビ差粘って勝ちました。
▲外から迫る2着タイムオブライフをクビ差しのぎ、ヒイズルが勝利(写真提供:佐賀県競馬組合)
勝ったヒイズルの父はスクワートルスクワートで、そう、ヨカヨカと同じ父。母の父は2001年マイルチャンピオンシップをオリビエ・ペリエ騎手とのコンビで制したゼンノエルシド。宮崎県東諸県郡綾町の吉野政敏さんの生産です。
綾町は昔から馬の産地として有名で、「綾競馬」と呼ばれる草競馬でも有名な地。馬文化の根付く地から新馬戦勝ち馬が誕生したのでした。
鞍上の吉本隆記騎手は「スタートのいい子で、最後まで頑張ってくれました。初の九州産限定の新馬戦ということで、第1号として勝てたことは本当に光栄です」と喜びました。
▲佐賀に移籍して3年の吉本隆記騎手。「佐賀の一員として九州産限定の新馬戦を盛り上げられてよかった」と笑顔。(写真提供:佐賀県競馬組合)
ちなみに吉本騎手は以前は浦和競馬に所属していたジョッキー。
短期で佐賀競馬で騎乗したのち、19年に正式に佐賀競馬に移籍してきました。
「佐賀競馬に移籍して3年が経ちますが、佐賀の一員としてこのレースを盛り上げることができてよかったです。
南関東でもお世話になっていた馬主さんの馬だったので、少しでも恩返しができて嬉しいです」
と、吉本騎手の立場で感じることもあったようです。
近年では地方馬がJRAに遠征するための規定が変更され、JRA認定レースを勝たなくとも、2歳馬の場合は収得賞金が150万円を超えれば「特指」レースへの出走資格を得られるようになりました。
この新馬戦の1着賞金は200万円で、ヒイズルはその基準をクリア。
もちろん、遠征には馬の状態やオーナーの意向がありますし、九州産限定の2歳戦としておなじみの小倉・ひまわり賞は「特指」ではなく「指定」レースのため、細かいルールはまた異なるのですが、小倉で走る可能性がゼロではないと考えると、夢は広がりますね。
※取材協力:佐賀県競馬組合