▲オジュウチョウサンのクセ馬エピソードに迫る(撮影:下野雄規)
不定期連載「クセ馬図鑑─愛すべき強者たち─」。このコラムでは、時にクスッと笑えるような、可愛くてどこか憎めない競走馬の個性にフィーチャーします。
第5回は昨年の中山大障害を最後にターフを去った障害の王者オジュウチョウサン。障害重賞15勝、うちJ・GI9勝といった華々しい記録の裏には数々のクセ馬エピソードが隠れています。聞けば聞くほどまるで人間かと思えるような賢いオジュウの姿を、現役時代に1番近くで見守ってきた長沼昭利厩務員に伺いました。
(取材=東京スポーツ・藤井真俊)
オジュウは自分が勝ったか負けたかも分かっていた?
──オジュウチョウサンが美浦トレセンを離れて約1か月半が経ちましたね。現在の心境は?
長沼 やっぱり寂しいですよ。8年間の付き合いだったんですから。厩舎にいる時は朝から晩まで一緒にいて…。1頭の馬と担当者というよりは、家族みたいなもの。家族との別れは、そりゃあツラいですよ。今でも障害レースを見ているとオジュウのことを思い出すんだよね…。
──そうですか…。でもオジュウとの出会いはかなり強烈だったんですよね。
長沼 はい(苦笑)。他厩舎からの転厩で、自分が迎えにいったんですが、暴れて暴れて…。うるさいとは聞いていましたが、はるかにその上をいっていましたね。顔に頭絡を着けるのにもひと苦労でした。その後、厩舎に向かうまでも大変。立ち上がる馬というのはよくいるんですが、着地と同時にキャンターで走り出そうとするんですよ、オジュウは! しかも馬格があって力も強いから、こちらはもう膝がガクガクしちゃうんですよ。そんな風にオジュウに引きずられる日々が続いたのである時、調教師に相談をしたんです。そして普段の運動から助手に乗ってもらって、そのうえで自分が馬を引く“2人体制”が確立されました。
──運動だけでなく馬房にいる時も大変だったんですよね?
長沼 ええ。1番すごかったのは2016年の中山大障害を勝った時かな。あの時が生涯でピークのデキだったと思っていて、自信もあったのですが、同時に最もオジュウに触るのが怖い時でした。それくらいピリピリしていましたから。少しでも油断したら大怪我をさせられるんじゃないかって。
▲ピリピリしていたという2016年中山大障害勝利時(撮影:下野雄規)
──実際に大怪我をした経験もあるんですよね。
長沼 厩舎にネズミ捕りが置いてあるんですがある時、猫がその粘着部分に引っかかってしまったんですよね。そしてあろうことか、洗い場につないであるオジュウの前でそれを引きはがそうとグルグルと回りながら暴れ出したんです。このままではオジュウがびっくりしてひっくり返ってしまう──。そう思ってとっさに制しに入ったところ、あろうことかオジュウが前肢で自分のことを叩いてきて…。結果、アバラを3本骨折。しばらくは胸をバンドで固定しながら働くハメになりました(苦笑)。
──え…。叩いてくるんですか? 偶然当たってしまったのではなく?