新年度が始まりました。入学、入社、異動など新生活がスタートする4月は地方競馬でも新人騎手がデビューする季節。今年の新人騎手は、名手・岡潤一郎元騎手が名前の由来になった人、史上初かもしれぬ成績「5」を取った逸材、ゴルフのティーチングプロを母に持つ少年など個性豊かな11名がいます。フレッシュな新人騎手にまつわる「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。
馬術大会準優勝者「骨格に合った追い方を追求」
地方競馬の売上げ増を表すかのように、今年は11名もの騎手がデビューします。
▲前列左から阿岸騎手、佐々木騎手、木澤騎手、松本騎手、山本屋騎手、合林騎手。後列左から宮内騎手、所騎手、加藤騎手、大畑騎手、阿部騎手。
数年前までは南関東に新人騎手が集中していましたが、全国すべての地区から騎手がデビューするというのも、地方都市の競馬場でも賞金がアップしたことが少なからず影響していると思います。
中でもそれを象徴するのは「高知競馬は売上げが上がっていて、注目を集めているので所属を決めました」という阿部 基嗣騎手(高知)の言葉。
阿部騎手は静岡県出身ながら、そのような理由で高知を希望。
「高知は騎手や調教師同士、仲が良くて、雰囲気がいいなと感じました。所属厩舎の西山裕貴調教師は元騎手で、馬を抑える時の体の使い方などを教えてもらっています」
山本屋太三騎手(園田・姫路)も神奈川県川崎市の出身で、初めて行った競馬場も川崎競馬場ながら、「毎週レースがあってたくさん乗れそうだから」と兵庫県の園田・姫路競馬への所属を希望しました。
「たくさん乗って騎乗技術を高めて、ゆくゆくは南関東の重賞に乗りに行きたいです」と将来像を描きます。
▲山本屋太三騎手は師匠・坂本和也調教師の勝負服に袖一本輪を加えたデザインでデビュー。兄弟子の大山龍太郎騎手(右)とは色違い。(写真提供:坂本和也調教師)
騎手たちは異口同音に「とにかく多くのレースに乗ることでしか、騎手は上手くなれない」と言います。
南関東でも騎乗機会はそれなりにあるでしょうが、激戦区であることもたしか。対して園田・姫路は減量騎手を積極的に起用する流れができつつあり、経験を積むこととレベルの高い環境に身を置くこと両方のバランスを取ることができます。
また、近年では吉原寛人騎手が金沢の所属ながらコロナ前は重賞のたびに南関東をはじめ全国各地から騎乗依頼を受けて、自身の技術を武器に飛び回っていました。
そうしたモデルケースもあって、南関東所属にこだわらなくても夢を目指せるようになったことも大きいでしょう。
宮内勇樹騎手(門別)はさらなる大きな夢を抱くジョッキー。
「近い目標では、上限をつけたくなくて数字を決めていませんが、日本中のファンが最も注目する凱旋門賞に勝つことが一番の目標です」
馬産地に生まれ、親戚は21年ユニコーンS勝ちスマッシャーの生産牧場である宮内牧場を営みます。
小学6年生の時、ジョッキーベイビーズ決勝に出場(この時の優勝は角田大和騎手)し、高校3年生では日本乗馬少年団連盟馬術選手権大会で準優勝。
地方競馬教養センターでは基本馬術の成績が5段階評価の「5」を獲得し、センター史上初ではないかと言われたほどです。
ちなみに、競走の分野では過去に御神本訓史騎手(大井)と宮川実騎手(高知)が「5」を取ったことがあるそうで、その後の活躍ぶりも納得です。
「追い込みに自信を持っています。研究して、自分の骨格に合った追い方を追求しています」
という宮内騎手は門別競馬が開幕する4月19日にデビュー予定です。
▲期待の新人・宮内勇樹騎手の訓練風景。高校を卒業し20歳でのデビューで、受け答えや自己分析もしっかりしている。
リンデンリリーにちなみ飼い猫は「リリー」
同じく門別でデビュー予定なのは阿岸潤一朗騎手(門別)。
「潤一朗」という名前は、早くから活躍するも24歳の若さで亡くなった岡潤一郎元騎手からつけられました。
お母さんが競馬ファンで、岡騎手でGI・エリザベス女王杯を勝ったリンデンリリーにちなんで阿岸家の猫は「リリー」という名前。
もちろん、そのエリザベス女王杯のレース映像も見たことがあります。
木澤奨騎手(大井)は17歳ながら趣味・特技に「ゴルフ」と書く大人っぽさを持つ少年。
お母さんがゴルフのティーチングプロだそうで、「それだと、先輩騎手や調教師から『今度ゴルフに行こうよ』って誘われませんか?」と聞くと、「はい、調教師から誘われています」と、早速声をかけられているようです。
所蛍騎手(船橋)は手足の長さが特徴的なジョッキー。
身長は171.9cmで、レジェンド・武豊騎手より約2cm高く、小学2年生から中学3年生までバスケットボールをしていたそう。しかし、バスケ選手としては体が細く、続けるかを考えていた時期に両親から騎手という仕事を教えられ、目指すようになったようです。
また、今年興味深いのは「この地方競馬場でデビューしたい」と、地元への愛着が深いジョッキーたちが複数いたこと。
佐々木志音騎手(岩手)は水沢競馬場から自転車で数分の場所に自宅がありました。
「友達のお父さんが水沢の厩務員をしていて、一緒に遊びに行った時に「いいな」と思いました。
初めて競馬を見たのは岩手競馬ですし、地方競馬教養センターに入所するまで岩手以外の競馬を見たことがありませんでした」と、岩手一筋。
大畑慧悟騎手(名古屋)は叔父がカツゲキキトキトとのコンビで活躍した大畑雅章騎手(名古屋)。
「幼稚園の頃に叔父のレースを見に行って、かっこいいなと思いました。自宅の近所には馬を飼っているところもあって、よく見に行っていました」
憧れの眼差しでレースを見ていたのは土古(どんこ)の愛称で親しまれた旧競馬場。競馬場は昨春、トレセンに隣接する弥富市に移転したため、「前の競馬場でも乗ってみたかった」という願いは叶いませんが、「ちゃんと乗れる騎手になれよ」と叔父からエールを受けています。
加藤翔馬騎手(金沢)はお父さんが元騎手の加藤和義調教師で、その厩舎に所属します。
「父同様、日本プロスポーツ大賞新人賞を獲りたいです」と目標を掲げており、4月2日にデビューすると、早速2戦目で初勝利を挙げました。
合林海斗騎手(佐賀)はおじいさんが中津競馬(2001年廃止)の元騎手。
おじいさんは小学6年生の頃に亡くなったのですが、生前、騎手をやっていたことを聞いていたそうです。
「祖父が亡くなってから父に小倉競馬場に初めて連れて行ってもらって、馬の脚音やムチの音、迫力を感じて『ファンの前で乗りたい』と思いました」
ジョッキーになりたいと伝えると、おばあさんは一番応援してくれたそう。
4月1日にデビュー一番乗り、さらに2戦目での初勝利も同期一番乗りとなりました。
また、松本一心騎手(笠松)もお父さんが松本剛志騎手。所属厩舎はお父さんと同じ加藤幸保厩舎とあって、父ではなく「兄弟子」と呼んでいます。
こちらは明日4月5日笠松1レースでデビュー予定。自厩舎のチュウワシルバーという、JRAから移籍後2戦続けて2着の馬に乗ります。
これから各地の地方競馬を盛り上げてくれるであろう新人騎手たちのこれからの活躍に期待したいです。